「夢のために600万投資したい」平凡な主婦の提案に夫の反応は? /ただの主婦が東大目指してみた

壮大な夢か、あるいは赤面ものの妄想か   5月某日

さっそく東大について調べてみた。

私が東大生になる方法は、3つある。学部入試、学部編入、大学院入試の3つだ。

この中で一番難易度が高いのは、間違いなく学部入試だ。高校レベルの内容だとはいえ、8教目も勉強しなくちゃいけない。間違いなく学部入試だ。編入や大学院の入試だと、科目は少なくて済むけど英語や第二外国語、専門科目、論文や研究計画書づくりにプレゼン、口頭試門......。

大学院だと、早くてあと3カ月で院試(8月に実施)があるみたい。

3カ月かぁ......でもなぁ、専門知識がゼロの状態だから、ちょっと厳しくないか?

しかも東大の学部入試を通さず晴れて「東大生」になれたとしても「学歴ロンダ」とか揶揄されるんだろうな。まぁ、学部入試の難易度が異次元レベルに高いから、仕方ないんだけど。

ところで、私は何の研究者になりたいのかな? 東大に入学して、とがりたいっていうのも理由の1つだけど、どうせ究めるなら、誰かを幸せにするような研究がしたいな。

ぐるぐると考えを巡らせていると、ふわっと心療内科の先生の顔が頭に浮かんだ。

心療内科に行って自分の「皮膚むしり」が自分のせいではないって知って、ものすごく楽になった。何十年も縛られていた苦しみや罪悪感から解放された。

先生は私の「幸福度」に貢献したといっても過言ではない。薬を処方してくれたり、夫に話をつけてくれたり、そんな具体的なことをしてくれたわけではない。なのに、ものすごく大きな影響だ。

......きっと、人間の幸福度を決める大きな要因は、「脳」の使い方なんだ。考え方1つで、「心」の状態がこうも大きく変わるんだもの。私も先生みたいに、自分の考え方のせいで苦しんでいる人のために、何かをしたい。

 

ああ、見つけたぞ、私の夢。

考え方のクセや、外的要因のせいで心が雁字搦めになっていて、しんどい思いをしたり、自分の人生を楽しめていない人をラクにするような研究をして、自分の描く漫画やイラスト、文章でわかりやすく、たくさんの人に広めたい!

研究者になるには、東大で基礎から勉強をして、博士号を取るのが一番だろう。時間はものすごくかかるけど、やっぱり学部からやり直して基礎を築こう。

そして、いろんな人との出会いを大切にして、全部全部、自分の人生の糧にするんだ。

大学受験用の予備校で働いていた経験もあるから、理論的には合格までの筋道が立てられるし、どう勉強すればいいのかもわかる。ああ、すべてがきれいにつながった!

やっと本気でやりたいことが見つかって、ずっとかかっていた霧がカラッと晴れて、人生動きはじめた感じがする......!

ピタッとブロックがはまったような感覚。ああ、ドーパミンがどくどく分泌されてる。

なんだかもう、じっとしてられないくらいワクワクしてる。

よし、私は東大へ行くぞ。夢を根こそぎ掴んでやるぞ。

ただの主婦の生活は、今日でおしまいだ。

600万円の自分磨き   5月某日

さて、ここからが問題だ。学部は4年、修士は2年、博士は3〜5年。

最短で卒業できても、学費その他もろもろ込みで約600万円かかってしまう。

自分磨き代としては、あまりにも高すぎる。ちょっとそこらのカルチャースクールに行く感覚ではないし、博士号を取得したからといって確実に将来の稼ぎにつながるものではない。

もちろん、合格しなくちゃ何もはじまらないけど、夢に向かって歩みだすって時点で、夫の許可を得るべきだ。

この時点ですでに5月。もし来年から東大生になりたいのなら、もう時間がない!

その日、夫が帰宅してすぐさま私のこの「ナイスアイデア」を伝えることにした。

扉を開けて、玄関に入ってきた瞬間、すぐに言った。

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※この記事は『ただの主婦が東大目指してみた』(ただっち/フォレスト出版)からの抜粋です。
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