40歳を過ぎ、しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実。しかし、年齢を重ねても、たとえ結婚していても異性と付き合うことで人間は磨かれる、と著者は考えます。
本書『大人の「男と女」のつきあい方』で、成熟した大人の男と女が品格を忘れず愉しくつきあうための知恵を学びませんか?
親しき仲でも「オスとメス」の意識を持つ
「ちょっと、貸してほしいものがあるの」
未曽有の大不況で、閑古鳥が鳴いている銀座のバーで一人飲んでいたときのこと。年は50に届くか届かないかという店のママからそういわれた。たしか結婚しているはずである。この店も私が30年以上なじみにしているバーだ。もしかしてお金の話かと、一瞬、緊張した。
「何ですか?胴突に」私はそう答えた。
「肩を貸してほしいのよ」
「???」
旦那(だんな)も、大学生の息子もいる女性の言葉である。
「冗談ですよ」
おそらく怪訝(けげん)そうな顔をしていただろう私に、彼女が話しはじめた。
「これといって、ダンナに不満があるわけじゃないのだけれど、もう男として感じられなくなってね。ただの戦友みたいな関係。たまには女として、男の肩にもたれてみたいこともあるの。ダンナは私にとってもう男ではないんですよ」
金の無心でも、私への誘惑でもなかったからひと安心したが、店から出て思い返してみると、なかなか意味深な言葉だと感じた。
恋に陥る男女は、出会って間もなく「この人となら一生愛し合える」と誰でも思う。だが、一緒にいることが日常になってしまうと、悲しいかな、燃えるような情愛は次第に薄れていく。はじめての待ち合わせのドキドキするときめきは消え去り、セックスの感動も回を重ねるたびに習慣になってしまう。絶世の美人だ、ハンサムだと高鳴っていた胸の鼓動もいつしか静かになっていく。だが、それはしかたのないことだ。
逆に、知り合った二人が、いつまでもはじめて惹かれ合った頃の感情の高ぶりを失わないのなら、それは大変、結構なことである。どんなに愛し合った男女でも、つきあいが長く深くなれば、ドキドキするような感情はなくなるのがふつう。その最初の頃のドキドキ感の源泉は、お互いに未知だったことのなせるワザだろう。わからないところがあるから、好きになってしまった相手に対する想像や期待が感情を高ぶらせるのである。
時間が経過し、お互いのことがわかりはじめると、そうした感情はいつしか薄れていく。
先のママもそうだが、どんな男女でもともに過ごした時間が長くなれば、ほとんどの場合、お互いを知り尽くしてしまい未知の部分がなくなってしまう。それによって、男と女という意識もまた薄れてしまうのだ。
「愛とは、一人の男なり女なりを大勢のなかから選択して、そのほかの者を絶対に顧みないことです」
ロシアの文豪トルストイは、名作『クロイツェル・ソナタ』のなかでそんな言葉を残しているが、その論でいけば残念ながら、ほとんどの人にとって愛とは儚(はかな)いものかもしれない。
だが、独身主義で「飽きたから別れる」といった人間ならともかく、夫婦の場合、恋愛の高揚感が薄れたからといって、愛情がなくなるわけではない。いつまでも男と女でいたいなら、やはり、お互いの工夫が必要になってくる。夫婦関係も少しずつリフォームする必要があるのだ。男女関係でいえば、そのキーワードは「オスとメス」の再発見だ。
いつまでも新鮮な男女関係を保とうと思うなら、はじめて会ったときのような緊張感をどこかに残しておかなければならない。
妻の前で平気でオナラをして「ゴメン」のひと言もない。風呂上がりに裸のままでリビングに現れる。一緒にいるのに服装がだらしない。人によってその尺度はさまざまだろうが、油断すると知らず知らずのうちに、男も女もオスとメスの「色気」を喪失してしまうのである。
もちろん、夫婦であるから裃(かみしも)を着て暮らしなさいとはいわない。だが、最低限のマナーだけは守らなければならないだろう。相手が不快に思う所作、行為には細心の注意を払うべきだ。
「好きな女ができると、その女のパンツのほころびもいとおしくなる」
かつて、ある人気男性タレントを取材した際、彼はある女性との新婚生活の喜びを語る席で、そうのろけていた。恋愛の素晴らしさの一面を物語るエピソードではある。だが、そんな思いも一時の恋なら刺激になるが、男女の長い愛情関係では要注意だ。
ある日、突然、かつてのいとおしさが「だらしがない」と評価が反転することもある。それが理由かどうかは知る由もないが、そのタレントは離婚を何度も繰り返し、やがて表舞台から消えていった。どこかで、守るべきお互いのオスとメスのルールがなくなってしまったのではないだろうか。
男女の関係においてオスとメスの意識はとても大切だ。どんなに長く愛し合った間柄でも、日々、男はオスである自分、女はメスである自分を自覚すべきだと思う。
そうすれば、いつまでも女が「借りたい肩を持つ男」でいられる。女もまた、男が「そうっと抱きしめたくなる女」でいられるはずだ。
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1935年大阪生まれ。1958年慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任。1977年に退社し、日本クリエート社を設立する。現在、出版プロデューサーとして活躍するとともに、エッセイスト・評論家として、新聞や雑誌などに執筆。講演なども精力的に行なっている。主な著書に『遊びの品格』(KADOKAWA)、『40歳から伸びる人、40歳で止まる人』『男の品格』『人間関係のしきたり』(以上、PHP研究所)など。
(川北義則 / KADOKAWA)
「年齢を重ねても、たとえ結婚していたとしても、異性と付き合うことによって、人間は磨かれる」というのが著者の考え。しかし、40歳を過ぎてから、 しかも家庭を持つ男の恋愛は難しいのが現実です。 本書は、成熟した大人の男と女が品格を忘れず、愉しくつきあうための知恵を紹介。 いつまでも色気のある男は、仕事も人生もうまくいく!