『九十一歳、銀座きもの語り』 (村田 あき子, 西端 真矢 /KADOKAWA)第2回【全7回】
銀座で200年の歴史を紡いできた、小さな呉服店。その暖簾(のれん)を守り、90歳を過ぎてもなお、凛として店に立ち続けたひとりの女性がいます。それが「染織工芸 むら田」の店主・村田あき子さん。きものと共に歩んで70年、店主として30年。本書『九十一歳、銀座きもの語り』(KADOKAWA)は、村田さんが銀座の街で見つめてきた「きものと手仕事」、そして家族との愛おしい日々を綴った一冊です。人生の後半戦をいかに豊かに、美しく過ごすか――。そのヒントが、彼女のたおやかな語り口の中に溢れています。今回は本書の中から、きものに導かれた美しき人生の記憶を、抜粋してご紹介します。
※本記事は村田 あき子 (著), 西端 真矢 (著)による書籍『九十一歳、銀座きもの語り』から一部抜粋・編集しました。

祖父の影響で子どもの頃から草木を写生していた。写真は大学時代
毎朝の決まりごと
九十一歳の私の一日は、わりあいのんびりと始まります。毎朝、起きるのは七時半前後。特に目覚まし時計はかけていないのですが、障子越しに少しずつ日差しが入るせいか、大体同じ頃に目を覚まします。しばらくはそのまま布団の中でうつらうつら、とりとめのない考え事をするのも毎日のことです。
私の部屋は六畳の和室で、ベッドではなく昔ながらに布団を敷いて寝ています。我が家は一階を店舗、二階と三階を住居にした造りで、今は長男の利守夫婦と暮らしています。ちょうど國學院大学の裏手に当たり、他にもすぐ近所に東京女学館や広尾高校、山種美術館が点在する緑の多い文教地区で、大通りの車の音もここまでは届きません。昭和の半ば、まだ東京の地価がこれほど高騰する前にここに建売の家を買い、その後、一階を小さな染織ギャラリーにするために新しく建て替えました。その一階を更に改装して今は店舗にしているという訳です。都心にありながら緑豊かな一角に手ごろな家を見つけ、買おうと決断してくれた亡き夫に、うつらうつらと感謝するのもこの時刻です。
さて、しばらくすると起き上がって部屋着に着替え、布団を片づけたら隣の居間で朝食を頂きます。と言ってもトーストと紅茶だけの簡単なものですが、トーストに塗るジャムにはこだわりを持っています。長年いくつか好きな銘柄があって食卓に欠かさないようにして来ましたが、この数年は手作りを始めました。田端に住む弟やお客様のお宅の庭に実った甘夏から作るマーマレード、長野から取り寄せるルバーブのジャムは定番です。夕食後や仕事へ出る前のすき間の時間に作り、たくさん出来た時は瓶に詰めてお客様にも差し上げています。
そうして朝食を頂いた後は二階の出窓に並べた鉢植えに水をやり、それから一階の庭に出て――この庭は店の窓からお客様にご覧頂ける造りになっています――植木に肥料を足したり病葉をむしったり、ひとしきり手入れをして過ごします。草花に触れることはごく幼い頃から私の人生に欠かせない習慣でした。後ほどお話ししますが、これには祖父の影響が大きかったように思います。ここの家に越してからは主に大菊や木香薔薇、芙蓉、ヤマホロシ、それから朝顔を育てて来ました。最近は、フェンスにつる草をからませてみたらどうかしら、どんなつる草ならこの庭に釣り合いが良いかしらなどと新しく思案しています。
さて、花の手入れが終わったら、きものに着替えます。ここは私の専門分野ですから、少し詳しくお話しいたしましょう。








