人間より寿命が短いペットと暮らす人にとっては避けて通れない死別。動物を愛する人にとって、ペットを亡くした哀しみや後悔は、どれだけ時間が経っても心が締めつけられるもの。動物は話せないが、無償の愛情を向けてくれるからこそ、亡くしたときに私たちが抱く感情は複雑で整理しにくいものだ。
※この記事はダ・ヴィンチWebからの転載です。
そんなペットとの死別を経験した人や、ペットは飼いたいがいずれ来る別れのつらさを考え踏み出せない人の手助けになるのが、本書『虹の橋へ旅立ったあの子が教えてくれること』(先崎直子、井手敏郞/自由国民社)だ。
著者は、ペットを亡くした人へのグリーフケア(喪失体験による「悲嘆」に向き合う人への寄り添い、サポート)の活動にも従事する獣医師・先崎直子氏と、公認心理師で、グリーフケアやペットロスケアに関する研究やカウンセリングを行う井手敏郞氏。ともに日本グリーフ専門士協会の理事・代表理事を務めている。
「虹の橋」とは、とある詩で詠まれた橋。動物が亡くなった後、天国の前に訪れるとされている苦しみのない場所とされ、本書ではグリーフケアの専門的な解説も交えながら、著者たちが飼い主から聞いた「虹の橋」を渡ったペットにまつわるエピソードを紹介する。
たとえば、子どもの頃から自分を支えてくれて夢を見つけるきっかけもくれた犬のコロ。処分されるところをあるカップルに育てられ、11年間を共に過ごしたウサギのユキ。困難を抱えた子ども時代や人生の岐路で不安を感じたとき、ペットが寄り添い背中を押してくれた9つのエピソードが綴られる。動物と暮らしたことのある人や、死別を経験した人にとって共感できることばかりだ。ペットを失った哀しみのなかにいると、彼らと暮らした喜びをつい忘れてしまいがちだが、本書を通じてその幸福を再確認できる。
ペットロスの体験者たちが吐露する、忙しくて異変に気付いてあげられなかった、自分が注意すれば事故が防げたのでは、といった後悔の気持ちも死別経験者は思い当たるところが多いだろう。また、死別後も心に刻まれる愛情に気付いたことや、哀しみを癒すアニマルコラージュアート(ちぎり絵)の活動など、ペットロスから立ち直ったエピソードも紹介されていて、今まさに悲嘆に暮れている人が前を向くためのヒントも得られる。
ペットとの暮らしで自閉症の子どもの情緒が安定したエピソードや、ペットとの触れ合いと健康寿命の関わりについても興味深く、人と動物が支え合うバディ関係の尊さや動物が人の心を癒すパワーの大きさに圧倒される。かく言う私も半年前に相棒の猫を失った当事者。死別から時間が経っているからかもしれないが、本書を読んで、哀しみや後悔は消えないものの、「やっぱり動物と暮らすっていいな」という思いが強くなった。
文=川辺美希