ブラック企業に勤めていた男性・撫倉和史(23歳)が赤ちゃん(0歳)に転生する...という設定で描かれる漫画『赤ちゃんに転生した話』。かわいらしい赤ちゃんの姿にハマる読者のほか、主人公の心の声により赤ちゃん特有のしぐさや行動の理由がわかるとあって、「勉強になる」「リアル」などの声が相次いでいます。作者は、医療従事者でもある漫画家の茶々京色(ちゃちゃ・きにろ)さん。自身の育児体験をもとにした本作はSNSでたびたび話題になり、医療監修をつけた新版として『毎日が発見ネット』で連載配信中です。
そしてこのたび、「次にくるマンガ大賞2023」にノミネート! そんな茶々京色さんへ、ノミネートされたお気持ちや本作の人気ぶり、そして今後の展望についてお話を伺いました。
『次にくるマンガ大賞 2023』Webマンガ部門にノミネートされました!
■育児に携わる人の不安を少しでも軽くしたい
「次に来るマンガ大賞2023」のノミネート、おめでとうございます。エントリー数5,000作品以上の中から選ばれましたが、今のお気持ちや今後の抱負をお聞かせください。
茶々京色(以下茶々):「こんな漫画が読みたい」とラフに描いてアップした漫画が、皆様と共に成長し、書籍化し、ついにはノミネートされたことを本当に嬉しく思います。読者の皆様、周りのサポートしてくださる方々、たくさんの人に恵まれて光栄です。これからも皆様の想いに報えるよう、そして皆様の人生において何かしらのプラスになるよう頑張っていきたいと思います!
――本作は、「赤ちゃんはなぜこんなに泣くの?」など、育児で感じる「なぜ?」「どうして?」を解決してくれると評判です。どのような想いでこの漫画を描き始めたのでしょうか。
茶々:「育児に携わるすべての方々の、日々の不安を少しでも軽くする一助になりたい」、そんな思いから誕生しました。原始反射、身体発達、小児傷害事故など、赤ちゃん特有の発達や出来事を、漫画を通して楽しく学ぶことができれば、みなさんの赤ちゃんを慈しむ心がより深まるのではないか、自分自身もそういう漫画が読みたい、という気持ちがありました。
想像と違う! 赤ちゃんって寝放題じゃないの? え、何この動き? もがきながら俺は泣いた
――本当に「そうだったのか!」という発見が多く、子どもへの理解と慈しむ気持ちが深まっていると思います。読者さんからの感想などで、とくに嬉しかった、もしくは意外と感じた言葉を教えてください。
茶々:「この行動って反射だったんだ!」や「赤ちゃんが泣くのも無理ないな」など、誰に強制される訳でもなく、赤ちゃんに寄り添う気持ちが動いているようなコメントが多くて、とても嬉しいです!
意外だったのは、想像以上に細かい部分まで読み解いてくださっていることです。たとえば、主人公の和史くんが発熱をきっかけに実の母親のことを断片的に思い出すシーン。母親のセリフは意図的に効果音で隠していましたが、一語一句を完璧に解読した方がいて、思わずその方のツイートをブックマークしました(笑)。今後紹介するであろう疾患や傷害事故を予測される方もいて、フォロワーの皆様にはいつも驚かされています。
■和史くんが面白く物語を進めてくれて助かっている
――とくに反響が大きかった回や、ご自身のお気に入りの回を教えてください。
茶々:最近でいうと、エミちゃんの寝返り成功回です。寝返りという動作そのものに関する話や、反射の話を思う存分に入れることができ、私自身も描くのが楽しかったので、たくさんの反響をいただいて嬉しかったです。それと、エミちゃんの成長とともにチカチカと星が舞うエフェクトを入れているのですが、それらのシーンはどれもお気に入りです!
寝返りしたい! けど...。生後3カ月で人生詰んだ!? 赤ちゃんの俺が夢見た「移動能力」は...
――寝返り回では、和史くんが自らの動きを分析しながら練習する姿が真剣そのもので、まるでヒーローものの修行風景を見ているようでした! 無邪気なエミちゃんが感じていることや目に見える風景が成人男性によって冷静に語られるという構図に毎回笑わされますが、このような設定にした理由を教えてください。
茶々:赤ちゃんの物語を描くにあたって、主人公は何も知らない赤ちゃんではなく、ある程度の知識があって言語を使いこなせる大人である必要があったので、和史くんを主人公にしました。
成人男性かつポジティブ思考な和史くんが主人公になることで、赤ちゃんの身体の受容、周りの環境への適応、今後の方針など、彼自身が勝手に面白く物語を進めてくれるので助かっています。
いわゆる転生モノで多い目立ったチートスキル(現実ではありえないような高い能力や技能)がないからこそ、転生者としての工夫や戦略、リスク管理能力が今後も生きてくるのではないかと思います。
――登場するキャラクターたちの個性も強烈です。おじいちゃんの小児科の先生は「痛みに鈍いのかな?」と和史くんの予防接種の接種部位をギュッと押さえて、「インフォームドコンセントが!! 不足している!! 赤ちゃんだからって!」と和史くんツッコまれたりして......。この先生のモデルはいるのでしょうか?
「ハァハァ...」クセの強い医者に油断した赤ちゃんの俺、予防接種で熱くなる
茶々:ありがとうございます(笑)。モデルはいませんが、とある国の元大統領がデザインの元になっています。優しそうで、ユーモアがあって、優秀な、身内には厳しい、多分怖いお医者さんです。患者からの評判は良さそうです。
――『赤ちゃんに転生した話』がMVになったと聞きました。映画『おしりたんてい』の主題歌を手がけた、はりーP(針原翼)さんが作曲、歌唱力日本一決定戦準優勝の実力を持つKK(上北健)さんが歌を担当したという豪華な組み合わせで、今後の展開が楽しみです。
茶々:良いご縁に恵まれ、素敵な楽曲とMVを作っていただきました。作成にあたり、『赤転』の深いところまで読み取っていただき、感謝しています。さまざまなアーティスト方の感性に触れられ、享受できたことを限りなく嬉しく思います。本当にありがとうございます!
■快楽物質が出る!? 赤ちゃんのいる生活
――育児をしながら医療従事者として働き、さらに漫画を描くという毎日は、とても大変だと思います。
茶々:夫が休みの日に作業時間を作ってくれるので、助かっています。夫のサポートがなければ、ここまで連載を続けられませんでした。子どもと一緒に早く寝て、朝早く起きて作業しています。iPadで描いているので、通勤電車の中などで隙あらばネームを進めるなどして、毎日少しずつでも描けるように工夫しています。
――赤ちゃんの頭を吸うなど、ママさんのエミちゃん大好きな言動はまさに"子育てあるある"。少子化が進む中、赤ちゃんがいる生活はご自身にとってどんなものだと感じますか?
茶々:仕事が終わって保育園に子どもを迎えに行く時、まるで片思い中のようなドキドキ感と、早く会いたい焦燥感があります。間違いなく、赤ちゃん(我が子)がいる生活は私にとって人生の活力になっています。何か快楽物質が出ているのではないかと感じています。
――本作は他にはないまったく新しい観点で描かれていると感じますが、転生系の作品は今や定番人気のジャンルです。茶々京色さんも、転生系の漫画などはお好きなのでしょうか。
茶々:転生系というよりは、馴染みのない環境に対し、持っている知識や情報をいかに工夫して物語を進めるか、という漫画が大好きです。とくに好きな漫画は、藤のよう先生の『せんせいのお人形』(KADOKAWA)です。最近、広告で気軽に読んでのめり込んでしまった漫画は、転生×悪役令嬢ものですが、『悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』(白梅ナズナ:漫画、まきぶろ:原作/一迅社)の、表情豊かなキャラクターたちの描写に目を惹かれます! いかなる場合も先手を打ち、愛する者のために戦う強く美しい主人公・レミリアの物語は痛快でとても面白いですね! よくある悪役令嬢ものだと油断して読むと、この物語と世界に圧倒されると思います。
――これからの展開でファンの方に楽しみにしてほしいことを教えてください。
茶々:離乳食や赤ちゃんの更なる発達、よりパラメディカル*なお話を今後は展開していきたいと思っています。第二部では、ブラック企業時代の灰萩先輩が絡んでくるので、現世のエミちゃんとどのように関わるのか、これからの展開を楽しみにしてください!
*「医療を補助する人」の意。医師の指示の下で業務を行う医療従事者の総称
文=吉田あき