5月25日(金)公開の映画『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』。山田洋次監督が東京郊外に住む三世代家族・平田家の日常を描くシリーズ3作目は、一家を支える主婦の史枝(夏川結衣)が主人公。以前から専業主婦を描きたいと思っていたという山田洋次監督が、普段は口にすることのない専業主婦の泣かせる本音を描き出しました。そんな史枝を演じる女優・夏川結衣さんにお話を伺いました。
史枝さんは完璧な主婦ですが、そそっかしいんです(笑)
――史枝さんは長男の妻で、義理の両親と夫、まだ手のかかる二人の息子の世話をする忙しい毎日です。シリーズ3作目は、そんな史枝さんが主人公ですね。
夏川 撮影前に台本を読みながら、あれ?これは大変なことになるなと思いました(笑)。史枝さんが家出して、家族がてんやわんやになることも、その時に初めて知りましたから。まさか劇中でフラメンコを踊るとも思っていなかったですし(笑)。心して臨まなければと思いました。でも、山田監督の現場は本当に学ぶことの連続で、役者にとってこんなにいい訓練の場はないので、幸せだなと思いましたね。
――是枝裕和監督の『歩いても歩いても』(08)など、夏川さんは印象的な主婦役も多いですね。史枝さんについては、どう思われますか?
夏川 史枝さんは主婦業は完璧なんですけど、ちょっとドジというか、そそっかしいところがあるんです(笑)。初めて山田監督とご一緒した映画『東京家族』(13)で、私も監督に「粗忽な人ですねえ」って言われて。「粗忽!?」って思ったんですけど(笑)。その時から見抜かれているなと思いました。
――史枝さんが家でひとりにいる時に、泥棒に入られるんですよね。このシリーズは笑える場面が多いですが、あのシーンもコミカルでした。
夏川 しかも泥棒に入られる前に、史枝さんは居眠りしているんですよね(笑)。素敵な夢を見ていたと思ったら、泥棒!って。そこから、もうジェットコースターのように話が展開して、夫婦喧嘩になり、家出になり、事件を引き起こしてしまうんですけど(笑)。
史枝役の夏川結衣さん
いつもそこにいる大事な役割
――史枝役は、どんな風に作られていったのでしょう。
夏川 基本的に山田監督の作品は、監督自身が現場で作ってくださるところが大きいんです。たくさん演出していただいて、すごく充実感のある役でした。監督は「女優だからって、普段から女優でいてはいけない」という考えをお持ちだと思うんですね。家事も、ちゃんとやる人がお好きだろうと。「卵焼き作れるかい?」って言われて、やってみたら、「もっとキレイにできないのかい?」って(笑)。そのシーンは、結局、使われなかったんですけど。
――(笑)
夏川 監督が「僕はパジャマにアイロンをかけるのがうまいんだよ」っておっしゃって、「パジャマにアイロンですか!?」と思ったり(笑)。映画の撮影は、角度を変えて、同じシーンを何度も撮るので、例えばアイロンをかける場面なら、どういう順番でどういう風にかけたか、どのタイミングで台詞を話すか、決めておかないといけないんです。そうなると、アイロンに手間取っていてはお芝居ができないじゃないですか。でも、ちゃんとかけてほしいと監督がおっしゃって。そういうところは心がけました。
――史枝さんに共感するところはありますか?
夏川 史枝さんは長年、専業主婦をしていて、今回の作品で初めて、私も外で働きたいって夫に言うんですよね。その気持ちは、すごくよくわかるし、私にとっては、そこがいちばんヒントになりました。長年、社会に触れていないと、不安になる瞬間があるのではないかと思うんです。自分だけが置いてけぼりにされているような。そういうところを監督はよく見ていらっしゃるなと思います。台本で読んで、これはきっと主婦が皆、どこかで思っていることなんじゃないかなと思いました。
何か事件があると、必ず家族会議が開かれる平田家。今回の事件は、史枝の家出!
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取材・文/多賀谷浩子
夏川結衣(なつかわ・ゆい)さん
熊本県出身。モデルを経て、94年の『夜がまた来る』で映画初主演。その後もTVドラマ「青い鳥」(97)や「結婚できない男」(06)などの話題作に出演。『孤高のメス』(10)で日本アカデミー賞助演女優賞受賞。そのほかの映画出演作に『歩いても歩いても』(08)、『64―ロクヨンー前編/後編』(16)など。山田洋次監督作は『東京家族』(13)にも出演している。『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』
監督・脚本・原作:山田洋次
出演:橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優 他
配給:松竹 2018年 日本 123分
©2018「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」製作委員会