日本人にとって特別な花である桜を見守る、桜守(さくらもり)という仕事があります。
橋場真紀子さんは、日本三大桜名所として知られる弘前公園の染井吉野の桜守。
どんな思いで桜を見守っているのか、お話を聞きました。
花を咲かせ、散らし、葉を茂らせ、実を付ける...。
桜は命をつなぐために、次へ次へと形を変える
――橋場真紀子さんは、青森県弘前市にある弘前公園で、約50品種、2600本の木を見守る樹木医。以前は東京で別の仕事をしていましたが、故郷・青森で一生続けられる好きな仕事につきたい...。そんな心の声に素直に従い、いまの道を選んで18年になります。
橋場「生まれも育ちも青森。春になるたびに咲き誇る弘前公園の桜をずっと見てきました。桜は大切な心の"ふるさと"であり、いつもそばにあるものです」
――原風景なのですね。
橋場「はい。1年通して向き合っていると、桜は生きているなあと感じます。花を落とすと同時に葉を出し、実を付け、夏になればその葉を茂らせて、翌年の花芽と作ります。秋には葉を落とし、厳しい冬を迎える準備をして、一時も休むことなく次へ次へと変化していくんです。それは全て、自分の体を維持し生きるための行為。強さと生命力に驚かされます」
――桜守として、具体的にどんなことをされるのでしょう。
橋場「弘前方式という、半世紀続いている独自の育て方をします」
――桜切るばか、梅切らぬばかという言葉がありますが...。
橋場「弘前では2月20日頃から3月にかけて枝を剪定(せんてい)します。切ることによって桜は新しい枝を伸ばし、その若い枝にたくさんの葉が付いて日を浴びる...。それが次の花を咲かせるエネルギーになり、新しい葉っぱの根元にできる花芽が充実するんです」
桜を見守ること。
それは日本人の胸の奥にある懐かしい思い出を母のように守ること
橋場「もう一つの仕事は根を見ること。新しい根が伸びる場所を地中に作ります。根がすくすくと伸びれば、水分や栄養が木全体に行き渡って光合成も進みますから。そして花が終わった6~7月に、公園の2600本の全ての桜に肥料をあげるんです」
――花を咲かせるために、葉や根を育てる...。
橋場「木は1本1本違う命。目先のことではなく、将来を思い描きながら、目の前の桜が何を必要としているかを見るようにしています。弘前公園にはいま、樹齢100年を超える染井吉野が400本もあるんですよ。
人にはみんな桜の思い出があります。美しさに笑顔になる人もいれば、昔のことを思って涙を流す人もいるでしょう。桜をずっとここに咲かせることが、公園に訪れる一人一人の思い出を守ることにつながるように...。そう願っています」
弘前公園の美しい花筏の景色。2018年に100周年を迎える弘前さくらまつりは、4月21日(土)から5月6日(日)まで開催予定。
取材・文/飯田充代
樹木医。青森県は弘前市都市環境部公園緑地課チーム所属。