12月8日から公開の映画『オリエント急行殺人事件』で監督・主演を務めている名優、ケネス・ブラナーさん。これまで数々のシェイクスピア劇に主演し、多くの映画で監督・主演として活躍してきたブラナーさんが、2回にわたって最新作の魅力を語ります。
前編「アガサのひ孫がこだわる"口ひげ"はポアロ史上最大級!?/ケネス・ブラナーさんが語る『オリエント急行殺人事件』(前編)」はこちら
巨大なセットでリアリティを追及
――撮影を振り返っていかがでしたか?
ケネス・ブラナー 心躍るチャレンジでした。『マーダー・オブ・オリエント・エクスプレス』(原題)ってタイトルがすでに魅惑的じゃないですか。
――そうですね。
ケネス・ブラナー 壮麗な夜行列車で事件が起こる。それを65ミリのフィルムで撮る。列車も線路も駅も、列車が走る山まで実際に作っているから、とてもリアルなんです。本当にやり甲斐のある仕事でした。
今回のポアロはアクションも見せる
――『オリエント急行~』を新たな物語として楽しめました。
ケネス・ブラナー 事件の謎を解き明かしていく物語ですが、これまでになかったのは、犯人がわかった後。では、どうしようかというところを描いているんです。
――そこが一番感動したところでした。これまでのポアロは事件を解決する名探偵としてエンターテインメント的な描かれ方をされていたように思うんです。でも今回のポアロは悩んでいる姿も見せていて、これまでの映像作品で最も人間くさいポアロではないかと。だからこそ、ラストの場面、犯人の罪の解釈が心に響きました。
ケネス・ブラナー あそこはとても複雑な場面でした。ポアロはあの場面で重荷を背負うんです。彼の人間性は犯人の心の痛みに共感している、けれど彼の脳と道徳はまた違う答えを持っている。彼の中で非常に大きな矛盾を抱えているんです。今回、彼は犯人に一つの解決を与えます。けれど、それは別の視点から見たら正しい判断だと言えるのか。それは彼自身が責任をとらなければならないことです。だから、犯人にはああいった解決を与えたけれど、彼自身はモヤモヤした矛盾を抱えたまま、次の事件へ旅立っていくんです。せっかくの休暇を返上して事件を解決したというのに(笑)。
ロシアの貴族・ドラゴミロフ公爵夫人を演じたジュディ・デンチ(右)
次回作にも意欲! エイジングに対抗するコツとは
――次の事件といえば、話題になっている『ナイルに死す』ですね。次回作も、ブラナーさんがポアロを演じ、監督を務めるという話が出ていますが......。
ケネス・ブラナー まだ台本は出来上がっていないけどね(笑)。恋人のキャサリンも『ナイル~』に登場しますし、口ひげに関しても面白いエピソードが出てきますよ。『ナイル~』は『オリエント急行~』ほど多くの人に読まれていないから、いろいろと変える余地がありますからね。もっと新しい要素を盛り込みたいと思います。
――今後も名探偵ポアロのシリーズを監督・主演するとしたら、気になる作品はありますか? 例えば、『アクロイド殺し』とか。
ケネス・ブラナー あれはすごく面白いですよね。アガサ・クリスティーの最初のベストセラーで、すごいドンデン返しがあって。とても英国っぽい話だと思います。ただ、映像化するには、ちょっとスケールが小さくなるかな。たしかポアロがキュウリを栽培しているんだよね(笑)。まずは『ナイルに死す』ですね。次もすごい映画になりますよ。
――まさに円熟期という感じのブラナーさんですが、最後にいい年齢の重ね方の秘訣を教えてください。
ケネス・ブラナー エイジングに対抗するコツ? ははは。10年前からヨガや瞑想をやっています。とても助けになりますよ。僕は信じられないくらいラッキーだと思います。こういう立場にいられることが。自慢じゃないけど、今年、65ミリの映画を2本も撮ったのは僕だけなんです......って自慢に聞こえたら謝ります(笑)。そのうちの1本が、この映画です。今度の日曜日(12月10日)に57歳になりますが、57歳で世界中で公開される映画に携われるなんて、すごくラッキーですよね。今後はわからないけど(笑)、本当にありがたいことですね。
取材・文・撮影/多賀谷浩子
ケネス・ブラナー
1960年生まれ。北アイルランド、ベルファスト出身。王立演劇学校(RADA)卒業後、23歳でロイヤル・シェイクスピア・カンパニーに入団。史上最年少で『ヘンリー五世』『ロミオとジュリエット』に主演し、"ローレンス・オリビエの再来"と評される。その後、舞台のみならず、数々の映画にも監督・主演。『マリリン 7日間の恋』(2011)では、ローレンス・オリビエを演じてアカデミー賞助演男優賞にノミネートされた。
全国公開中
監督:ケネス・ブラナー 出演:ケネス・ブラナー、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、デイジー・リドリー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルスほか
配給:20世紀フォックス映画
2017年 アメリカ 上映時間:114分
©2017Twentieth Century Fox Film Corporation
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