アカデミー賞最多13部門ノミネートの話題作は一体どんな作品?『シェイプ・オブ・ウォーター』【映画】

SOW_main.jpg

大勢と暮らしていても、ひとりでいてもーーどんな境遇であれ、人は時々、どこかで孤独を感じるもの。そのせいか、映画館の暗闇でひとり静かに心を傾ける「映画」には、孤独な登場人物が数え切れないくらい登場してきました。

そんな孤独な名ヒロインが、またひとり誕生したのが、今月の発表が待ち遠しいアカデミー賞で、最多13部門にノミネートされている話題作『シェイプ・オブ・ウォーター』。1月に公開された『パディントン』シリーズの女優サリー・ホーキンスに当て書き(その俳優を想定して脚本を書くこと)された役だけに、彼女のオーガニックな魅力が溢れ出ています。

映画が始まって間もなく惹かれるのは、ヒロインの暮らす部屋。濃密な色彩で、どこか寓話的な雰囲気。テイストは違いますが、日本でも大ヒットしたフランス映画『アメリ』(01)のような濃密な色彩が魅惑的で、たちまち別世界へといざなわれます。

そして、ますます別世界感を高めているのが、彼女の住むアパートの部屋の階下に映画館が広がっていること。この映画には、ギレルモ・デル・トロ監督の映画愛が込められているのです。赤い内装の古い映画館がロマンティックで、これから語られるピュアな愛の物語を象徴するようです。

SOW_sub3.jpg

ヒロイン・イライザ役のサリー・ホーキンス。監督は、映画『サブマリン』(11)に脇役として出演していた彼女から目が離せなくなったそうです。)

ギレルモ・デル・トロ監督は、メキシコ出身の映画監督。これまでのデル・トロ作品を観ると、『シェイプ・オブ・ウォーター』が、それまでの彼の世界観と地続きであることが感じられます。

たとえば、2006年の『パンズ・ラビリンス』。少女が不思議な世界に迷い込む、『不思議の国のアリス』をダークに表現したようなファンタジーなのですが、やはり濃密な色彩世界といい、登場するクリーチャーといい、デル・トロ・ワールドが色濃く表れています。

今回、『パンズ・ラビリンス』に続き、『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞にノミネートされたことについて、2月に来日した監督は、こう話していました。

「『パンズ・ラビリンス』と『シェイプ・オブ・ウォーター』、自分の世界を表現しきった作品で2度、アカデミー賞にノミネートされたことが、とてもうれしいです。僕は、こうした物語の持つ詩の力を信じています。ファンタジーだから描ける美しさがあると思いますから」

SOW_websub1.jpg

水槽の前で「彼」と触れ合うイライザ

デル・トロ・ワールドを象徴する、独特のデザインのクリーチャー。今回は、そのクリーチャーが、ずっとひとりで生きてきたヒロインを孤独から連れ出す、恋の相手役なんです。半漁人のようなビジュアルの「彼」は、ヒロインのイライザが働く政府の機密機関「航空宇宙研究センター」に謎の生物として運び込まれます。

研究所の権力者たちは、どこか不気味にも見える、得体の知れない「彼」を恐れ、ひどい対応をします。けれど、研究所の掃除係であるイライザは、「彼」が閉じ込められた大きな水槽のある殺風景な部屋に忍び込んでは、「彼」との時間を重ね、心の距離を近づけていく。二人だけにわかることがあるのです。

イライザは話すことができません。半漁人というキャラクターといい、どこかアンデルセンの「人魚姫」を思わせるのですが、イライザは「彼」のことを友人にこう話します。「彼は口のきけない私のことを特別視しなかった」と。

人間とは種類が違うという理由で、「彼」を徹底的に排斥しようとする研究所の大人たち。それとは対照的に、イライザと「彼」は言葉を超え、わかり合っていく。監督はこう言います。「言葉というのは、嘘もつけます。映画の中で、台詞のある人たちは皆、混乱していますが、言葉を発することのない二人が、誰よりも心でつながっているのです」

独創的なラブシーンは、きっと誰もの予想を裏切る、観たこともない素敵な場面なのではないでしょうか。

unnamed.jpgデル・トロ監督(左)と、『パシフィック・リム』(13)で監督と組んだ女優の菊池凛子。記者会見での1枚。

ちなみに、この映画の舞台は1962年。それについて監督は、こう言います。

「今は"other"、つまり自分と異なる存在、よそ者である人たちを受け入れるのではなく、『信用するな、恐れろ!』という時代。そんな時代に、この物語が必要だと思ったのです。トランプ大統領が言う"Let's America great again."(アメリカを再び偉大な国にしよう)が示す偉大な時代というのが1962年なんですね。戦争が終わって、非常に裕福で、人々が将来に希望を持っていた時代。けれど実際には、今と同じように人種や性への差別があったんです。だから、今と同じ時代として描いています。愛情や心を感じ取ることが難しい現代の人たちの心に届けるためには、携帯もSNSもない時代のおとぎ話にした方が伝わるのではないか。そう思い、1962年に声を失った女性がいました......という語り口にしました」

今の時代の不安を反映したこの作品は、ファンタジーという形でやわらかに観客の心に届きます。

「これは映画への愛を込めた作品ですが、巨匠の名作ではなく、メキシコで"日常シネマ"と呼ばれるような映画なんです。僕自身がドン底まで落ち込んだ時、決して大作ではない喜劇やメロドラマやミュージカルを観て、とても救われてきた。観客を元気にする目的しか持たないような、そういう映画への愛が、この作品には込められています」

観た人は、きっと救われるのではないでしょうか。劇中のイライザの孤独が「彼」と出会って満たされていくように。今月1日から公開。アカデミー賞の発表は日本時間の3月5日(月)です。

文/多賀谷浩子

『シェイプ・オブ・ウォーター』

全国公開中

監督・脚本・製作・原案:ギレルモ・デル・トロ 出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンスほか
配給:20世紀フォックス映画  2017年 アメリカ 2時間4分
© 2017 Twentieth Century Fox

友だちに教える
この記事が気に入ったらいいね!しよう
毎日が発見の最新記事をお届けします。
PAGE TOP
毎日が発見ネット
毎日が発見ネット
毎日が発見ネット
毎日が発見ネット