北海道を舞台にキタキツネを撮り、米国の「ナショナル ジオグラフィック・トラベル
フォトグラファー・オブ・ザ・イヤー2016」ネイチャー部門1位を日本人で初めて獲得し、注目を浴びる写真家・井上浩輝さん。ファインダー越しにキタキツネにどのような思いを寄せているのか、お話を伺いました。
「"孤高"という言葉を表すように、1匹でいるその姿をシンプルに、美しく撮りたい。"一人で生きていきたい"という僕の思いと重なる部分と、そう生きる彼らに対する羨望と、両方あるからだと思います」と、井上さん。キタキツネを追い始めたのは、約4年前。雪景色の中にぽつんといる姿を撮影したのが始まりでした。
「正直、もともとキタキツネが好きというわけではありませんでした。でも、稜線を走っている姿を見た時、その体がとても伸びやかで素晴らしいと思ったんです」
道央の富良野から美瑛、旭川にかけて、そして道東の知床が主な撮影場所。生息地によってキタキツネの顔つきや体つきが異なると言います。
「美瑛の辺りは鼻が高くて美形なのが多い。知床にいるキタキツネは鼻が短くて彫りが深く、足が短くて体も小さめでかわいくない(笑)」と井上さん。
井上さんが受賞した賞を主宰する『ナショナル ジオグラフィック』は、世界的な自然科学雑誌。そのウェブサイトに投稿して受賞したのが、上の写真です。夕方、美瑛の丘がピンク色に染まる一瞬、2匹のキタキツネが駆けていく姿を収めました。
「僕のカメラをできるだけ意識していない姿を撮りたい」という井上さんはキタキツネだけでなく、エゾシカやヒグマなども撮影。一面の雪、降り注ぐ光、しっとりとした雨上がり...美しい北海道の風景の中に生きる彼らの姿が捉えられています。
「ファインダーをのぞいた瞬間から、いつもどんな寒さでも汗がだくだく出てきます。シャッターを押す瞬間は、なんて居心地がいいんだろうと、僕がいま生きているなと感じる瞬間です」
※「毎日が発見」2017年12月号付録カレンダーは井上裕輝さんの作品です。北海道の四季とキタキツネの美しい写真の数々で2018年を彩りませんか?
取材・文/岸上佳緒里
井上浩輝(いのうえ・ひろき)さん
1979年札幌市生まれ。大学院修了後、北海道に戻り、風景写真の撮影を開始。キタキツネを中心に、エゾシカやヒグマなど動物がいる美しい風景を追う。初の写真集『follow me ふゆのきつね』(2,000 円+税、日経ナショナル ジオグラフィック社)は、冬の北海道の真っ白な世界とキタキツネの姿を収めた写真約80点を収録。見たことのないキタキツネの表情やしぐさに心引かれる一冊です。