AIロボットは"感情を持たない"からこそ介護の分野で活躍できる/人工知能の第一人者に聞く

AIロボットは"感情を持たない"からこそ介護の分野で活躍できる/人工知能の第一人者に聞く pixta_32935154_S.jpg医療や技術の進歩により、これからは100歳以上生きられる人というのも珍しくなくなると言われています。"人生100年時代"とも呼ばれる一方で、ますます重要となるのが「いかに健康に長生きできるか?」。俗に"健康寿命"とも呼ばれていますが、ただ長生きするというのではなく、いかに健康的に過ごせるか? というのが人類にとっての大きな課題となってきます。

そこでこれまで以上に重要になってくるのが"健康管理"。昨今、科学の分野で最も注目されている技術として、"人工知能(AI)"が挙げられますが、健康管理においても役立てられることが期待されています。

そこで、人工知能研究における第一人者の1人として知られる、札幌市立大学理事長・学長の中島秀之先生に、健康管理における人工知能の活用の可能性と将来の展望についてお話を伺いました。

前の記事「朝、鏡の前で歯を磨くだけで健康状態がわかる。そんな時代が近づいている/人工知能の第一人者に聞く(1)」はこちら。

 
介護においては"感情を持たない"AIロボットが優位な活動も

"健康寿命"とも呼ばれる、人が健康的に長生できる期間。そのための健康管理の大切さとともに、ますます課題が本格化するのが"介護"問題。人工知能(AI)は、医療分野と同様に社会に大きな役割を果たすと言われています。

中島先生は、介護の分野で特に期待が持てるのは"AIロボット"だと言います。というのも、介護の分野は、身体の自由が利かなくなった高齢者の介助や排せつのケアなど、肉体的にも精神的にも過酷な労働・作業が伴うものが少なくありません。

将来、さまざまな分野に入り込んでいくことが予想される人工知能ですが、「基本的には人間のやりたくない仕事をAIやロボット、機械が代替するというのが自然」と中島先生。特に介護の場合には、人の感情を伴わず、ある程度、機械的・事務的に行うほうが適した作業も多く、AIやロボットが高度化されることでますます活躍の場は広がっていくと思われます。

また、中島先生が専門的に研究を行っているのは"交通システム"におけるAIの活用。2016年から「Smart Access Vehicle(略称:SAV)」と呼ばれる、未来型交通システムの社会普及を促進する「未来シェア」というプロジェクトに取り組んでいます。

SAVとは、公共交通の利用要求に対し、リアルタイムに自動で配車を行うことができる新しい交通システム。AIがリアルタイムに車両の最適なルートや交通手段の組み合わせをシミュレーションして、最適な配車を行えるというもので、「喩えて言うと、路線バスとタクシーのいいとこどりをしたようなシステム」とのこと。

この仕組みにより、大都市では自家用車が不要になり、まずは交通渋滞の解消が期待できます。さらに、高齢化社会が進むと懸念されている、"交通難民"の問題の解決にもつなげられます。

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主体はあくまで"人"にあること―人工知能と人の関係性と社会のあり方

このように、介護など高齢化社会がもたらす新たな問題・課題に対しても、AIの活躍が大いに期待されています。しかし、中島先生によると、AIが得意とする領域はあくまで"目的"がはっきりしている事象。反対に、是非の判断など"価値観"の伴うものをAIに任せることは難しいと言います。その理由を中島先生は次のように話しました。

「囲碁のようなものは、要は勝つか負けるかというゲームなので、一晩に何千局とか人間ではとても無理な数をプログラムがランダムに対局して学習させることができます。しかし「よい」か「よくない」か、のような、例えば料理を評価するといったような行為は、人間の価値観や感性に基づくものなので、AIにとっては難しく、まずはなにがよくてなにがよくないのか、を教えてあげないといけません」

その上で、AIの今後の展望においては、「AIがどういうかたちでアシストをするか?」や「AIでどういう社会にしたいか?」というビジョンがとても大事になるとのこと。その理想的な姿については次のように語りました。

「何かのアクションをしたときにAIが適切なことを返してくれるというのが理想的なあり方だと思います。人間と言うのは、ちゃんと聞いていれば文脈まで理解して反応するものです。例えば同じキーワードが出てきても、反応してはいけないときとそうでないときを判断します。今のAIの技術には、人間の側が何もアクションをしていないのに、AIが自動的に何かをやってくれるというものが多いのですが、AIがそこまで判断できるレベルになれば、社会にますます浸透・定着していくでしょう」

さまざまな分野での利活用が期待されている人工知能。2045年にもコンピューターが人間の知能を超える"シンギュラリティ"を迎えるとも言われていますが、人工知能と人間の関係性はあくまでも役割分担。人工知能は決して脅威ではなく、共存共栄で人間の豊かな未来を保証してくれる技術として捉えることが大事なようです。

 

取材・文/神野恵美 撮影(中島先生)/松本順子

AIロボットは"感情を持たない"からこそ介護の分野で活躍できる/人工知能の第一人者に聞く 鎌田 實(かまた・みのる)さん
中島秀之(なかしま・ひでゆき)先生

1952年、兵庫県生まれ。情報工学者。
1983年、東京大学大学院情報工学専門博士課程を修了後、当時の人工知能研究で日本の最高峰だった「電総研(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所)」に入所。協調アーキテクチャ計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。2001年に産総研サイバーアシスト研究センター長、2004年に公立はこだて未来大学の学長となり、教育と後輩の育成、情報処理研究の方法論確立と社会応用に力を注ぐ。2016年3月、公立はこだて未来大学学長を退任し、同年6月から同大学の名誉学長となる。2018年3月に東京大学大学院情報理工学系研究科 先端人工知能学教育寄付講座特任教授を退任し、同年4月に札幌市立大学理事長・学長に就任。

近著に『人工知能革命の真実 シンギュラリティの世界』(ワック刊・共著)がある。

 

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