米山公啓先生にきく「他人事ではない認知症」(5)リスクを知り、リスクを減らす

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これをすれば認知症を予防できる、というものはないけれど、発症の危険性を避けるためにやったほうがいいことはある。その第一が禁煙。第二は生活習慣病、特に高血圧症の対策。そして、疫学調査で今最も明らかなことが、「運動を継続している人に認知症が少ない」ということ。これが神経内科医の米山公啓さんが教えてくださった、いわば認知症予防の最前線です。
今回は、高齢者のための介護の人手や施設の不足が伝えられる状況の中で、どうすれば安心して長く生きられるか、再び米山先生にお聞きします。

前の記事:「米山公啓先生にきく「他人事ではない認知症」(4)どんな状況でも最後まで自宅で暮らしたいか」はこちら。

  

病気の予防は老いていく者の努め。まず自分のリスクを知って!

米山 おふくろを8年間自宅で看ていたんですね。認知症でもありました。私が失敗したと思うのは、最後に病院に入れたために、9カ月間、完全に植物状態にしてしまったことです。鼻から管を通す、その手前、経管栄養にいかないことがスジだと考えていても実際はそうなった、延命治療ですね。家でそのまま死なせてやればよかったと思いますが、熱が出て呼吸困難になってきて、それを何もしないで見ているというのは、親父も私も、医者がふたりで看ていて、それはできませんよね。

--- どんな状態でも生きていてくれたらいい、という感情はなかったですか。私の場合にはありました。

米山 それはない。医者として、どんなふうに死んでいけばいいか、その設計が必要だと考えていますから、おふくろだけは別、ということはありません。最後の9カ月間は、ある意味、無意味なことだったと思っています。親父の場合は、予定通り、一切の治療を拒否して死んでいきました。そういう親や近所の人と付き合うにつけ、住んでいるところで最後まで暮らさせてあげたいし、そこで死なせてあげたいと思うんです。

--- そうした考え、思いが、世代によって、この先変わるのかどうか。例えば故郷を離れて住まいも一定してこなかった団塊の世代が、老いて死を迎えるときに何を望むか。いずれにせよ、病気を遠ざけ、なんとか元気でいるよう務めるのが、老いていく者の基本姿勢ですね。

米山 そうですよ。病気の予防をするしかない。正確に言えば、完全な予防は無理だけれど、あらゆる病気に対して、前回も言ったように、やったほうがいいことをやる、予防はこれにつきます。

--- 認知症も病気だから、そういう意味で、やったほうがいいことをやろうということですね。

米山 もちろん。おふくろが人間ドックを受けてみると、脳卒中のリスクだらけでした。案の定、半年後には脳卒中になって、どんどんボケていきました。脳卒中と認知症が関係しているかどうか、長い間曖昧でしたが、今では発症の確率は2~3割、とわかってきました。だから、脳卒中の予防は、認知症の予防としても見過ごせない。つまり、認知症にならないようにと考えるのではなく、自分の持っているリスクをちゃんと知って、リスクを減らしていくこと。食事量とストレスを減らす、運動をする、これはどの病気にも共通する"予防法"です。たくさん食べる人は認知症になりやすいんですよ。

--- あ、それは大変(笑)。そうしたあれもこれもひっくるめて、お医者さんとして声を大にしておっしゃりたいことは何ですか。

米山 やっぱり、一番簡単な健康法、禁煙! それと、「長生きして楽しい」、それが認知症を予防するようでありたい。脳の活性化の面からいうと、新しい体験をしていく、これが大事なこと。新しい体験、言葉にすると簡単だけれど、人生の中では容易ではない。というのも、脳には日常の習慣化を担う特別の場所があって、同じことを繰り返す、同じプログラムを使うようになっています。そのことの大切さと、それを打ち破って行く努力、両方やらなくちゃいけない。

--- それと、楽しむ意欲。意欲も衰えますか。それとも、導き出せますか。

米山 意欲の衰えは、前頭葉の機能の衰え。それは鍛えられます。同時にいくつかの物事をすることで。料理はその最たる作業ですし、本を読みながら足を上げるとか(笑)。

実は私は、元々絵が好きだったので、60歳を過ぎて京都造形芸術大学の通信教育を受けることにしてみたんです。スマホで受ける2年間。

--- どうですか。

米山 いや、面白い。意欲というのは、実際にできるかどうか、ちょっと難しいぐらいの五分五分の目標を立てるのがいいんです。だから卒業までいけるかどうかはわからない(笑)。

--- いざというときの布石!(笑)。ありがとうございました。

聞き手/編集部 撮影(プロフィール)/木下大造

  

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<教えてくれた人>
米山公啓(よねやま・きみひろ)先生
1952年、山梨県生まれ。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大学に勤務。第2内科助教授を経て、98年退職。父親の「米山医院」を後継し臨床の現場に立つとともに、医学実用書はもとよりエッセイ、医学小説など、長年にわたって精力的に執筆を続ける。主な著書に『今日からできるボケない生き方』(三笠書房)、『できる人の脳が冴える30の習慣』(KADOKAWA)など。
 
この記事は『毎日が発見』2015年6月号に掲載の情報です。

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