日本人の約4300万人が高血圧といわれています。高血圧は、脳卒中や心筋梗塞、腎不全などのリスクを高めるため、血圧のコントロールは重要な課題になっています。 では、血圧はどの程度、下げたらいいのでしょうか。
血圧は本当に低いほうがいいのか
米国でSPRINT(スプリント)という研究が行われました。上の血圧を120㎜Hg未満に下げたグループと、標準的治療の140㎜Hg未満に下げたグループとで、脳卒中や心筋梗塞などのリスクを比べた研究です。この結果、120未満に下げたグループのほうが脳卒中や心筋梗塞などのリスクが低くなることがわかったのです。
しかし、ここでだまされてはいけないことがあります。生活改善によって120㎜Hg未満まで下がるのならいいのですが、すべての高血圧の人に対して、画一的に薬で120㎜ Hgまで下げようとするのは間違いです。
人によっては、無理に血圧を下げてしまうと、脳や心臓、腎臓への障害が起こる場合があるからです。機械的に血圧を下げさえすればいい、というのは誤りです。
週刊誌の「降圧剤は飲むな」を信じてはダメ
ぼくが内科医として働きはじめた43年前、長野県は脳卒中多発地域でした。高血圧の人もたくさんいました。どうしたら地域から脳卒中を減らすことができるか、という健康づくり運動が始まりました。まず、血圧の自己測定をしてもらい、常に血圧が高い人には、生活習慣の改善をすすめました。
ぼくは血圧の薬は安易に使うべきではない、という考えです。しかし、「降圧剤はダメ」という原理主義者ではありません。生活習慣の改善をしても、血圧が下がらない場合は、慎重に薬を処方します。脳卒中や心筋梗塞のリスクを減らすためには、やはり薬が必要な場合があるのです。
野菜・減塩・運動・減量が王道
ぼくが、安易に降圧剤に頼らないのには理由があります。血圧は、生活習慣の改善でかなりコントロールできるからです。
その生活習慣とは、野菜をたくさん食べること、塩分を減らすこと、適度な運動をすること、肥満を改善すること。これらは、血圧のコントロールに関係していますが、がんや認知症、寝たきり、虚弱の予防にとっても、重要だと考えられています。
なかでも、ウォーキングなどの運動をすると血圧が下がることは、世界中の内科医が認めています。最近の研究では、運動で筋肉を動かすと、筋肉からマイオカインという物質が分泌され、がんや認知症のリスクを減らしたり、血糖値を下げたりする可能性があると注目されています。
生活習慣の改善のメリットは、単に薬で血圧を下げることより、ずっと大きいことがわかるでしょう。だから、薬を飲んでいる人も生活習慣の改善は必要なのです。
次の記事「女性は高血圧になりにくいのか?/鎌田 實先生に聞く(2)」はこちら。
鎌田 實(かまた・みのる)さん
1948年生まれ。医師、作家、東京医科歯科大学臨床教授。チェルノブイリ、イラクへの医療支援、東日本大震災被災地支援などに取り組んでいる。近著に『遊行(ゆぎょう)を生きる』(清流出版)、『人間の値打ち』(集英社新書)、『カマタノコトバ』(悟空出版)、『「わがまま」のつながり方』(中央法規)。