内臓を支える「骨盤底筋」が緩み、尿漏れや便失禁、性交の苦痛などの症状を発する病気「骨盤臓器脱」。進行すると、ぼうこうや直腸が下がって出っ張る「ヘルニア」になることも。違和感を感じたら、特に出産経験のある女性は1度、泌尿器科の受診をおすすめします。そのきっかけや治療法などを、医学博士で、日本泌尿器科学会認定専門医・指導医の嘉村康邦先生にお聞きしました。
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神経が残っていれば予防体操も効果的
骨盤底筋が弛緩する原因としては遺伝的要素もありますが、大きなきっかけとなるのは出産です。特に、多産、鉗子(かんし)分娩、赤ちゃんの頭が長時間産道にあったといった場合、陰部の神経がダメージを受け、筋肉が収縮する力が弱まります。産後のトレーニングは有効で、出産前に助言があったかと思いますが、忙しい育児の間に定期的にトレーニングをするのは困難なのが現実でしょう。また日頃重い物を持つ仕事をしていたり、便秘がちな場合も神経を傷つけます。
骨盤臓器脱の予防に、体操が効果的な場合があります。簡単なのはおならを我慢する要領で肛門にキュッと力を入れること。肛門を引き締めると、連動して骨盤底筋も動きます。ただし骨盤底筋の収縮に関連する神経が30%残っていれば筋力はアップしますが、10%では効果は見込めず、かつ神経がどれほど残っているかは自分自身では分からないのがやっかいなところです。
また骨盤底筋自体を動かす体操は難しく、内診を受けながら専門家のアドバイスとともにトレーニングしてみないと、きちんと動いていないことが多くあります。気になる症状があれば一度、「女性泌尿器科」や「ウロギネ科(泌尿器科〈ウロ〉と婦人科〈ギネ〉を合わせた造語)」の受診を。症状のステージや患者の希望により治療方法は異なりますが、大きく分けると、(1)運動アドバイス、(2)膣内補助具をつける、(3)サポート下着をつける、(4)手術、の4つがあります。手術の方法も3種類あり、選ぶことができます。骨盤臓器脱は日本ではまだまだ隠れた病気で、受診することで長年抱え込んでいた悩みの問題がはっきりと見え、安堵される患者さんが多くいます。
相談の窓口を広げるため、四谷メディカルキューブでは月1回、相談会「スワンの会」を開いています(http://www.mcube.jp 電話03-3261-0401)。まずは各地の無料相談会などをのぞいてみるのもよいでしょう。
嘉村康邦(よしむら・やすくに)先生
医学博士、日本泌尿器科学会認定専門医・指導医。四谷メディカルキューブ女性泌尿器科部長。福島県立医科大学卒業。専門は、女性泌尿器科、排尿障害一般。女性泌尿器科領域の手術療法に関しては常に最先端の技術を積極的に取り入れ、普及に努めている。