「過去に子宮の摘出をしたのに何か下がってきている感じがあり、股の間に違和感が...」。そんな悩みを持つ人はいませんか? 実は、子宮だけでなく、ぼうこうや直腸が下がる「骨盤臓器脱(こつばんぞうきだつ)」という病気があります。医学博士で、日本泌尿器科学会認定専門医・指導医の嘉村康邦先生にお聞きしました。
毎日の排尿、排便にも関係する骨盤臓器脱
骨盤臓器脱は、身近な病気です。日本では相談件数自体が非常に少なく実態は不明なのですが、例えば人口約3億人のアメリカでは年間約30万人もの女性が手術が必要な骨盤臓器脱になることが分かっています。相談者のような股の間の違和感の他、「引っ張られている感じ」「腰が痛い」「体を洗ったときにピンポン玉のような出っ張りに触れる」「座ったときにボールに乗っている感じがする」といった症状がありますが、これを病気と知らない人も多く、また恥ずかしさから受診を控えている人が大勢いると考えられます。 女性の体では、恥骨からぐるりと肛門の後ろを通り、一周するドーナツ形の筋肉「骨盤底筋」が下から内臓を支えています。ぼうこうから尿道、子宮から膣、直腸がそれぞれドーナツの穴の部分につながります。正常な骨盤底筋は尿や便をある程度ためてスムーズに出したり、赤ちゃんを子宮の中で必要な期間保持したりする役割を果たしていますが、骨盤底筋が緩むと尿漏れや頻尿、尿が出にくくなる、便失禁や便秘、性交が苦痛になるといった問題が出てきます。命に関わる病気ではありませんが、不具合が絡み合って生活の質が著しく低下するのが特徴です。 進行すると子宮やぼうこう、直腸が下がって出っ張る「ヘルニア(=何かが飛び出している状態)」となり、触れると分かるようになります。朝は症状がなくても、日中に重い物を持つなどの仕事をして「腹圧」がかかると内臓が下がり、夕方に違和感が出やすいという特徴もあります。
[内臓を支える力が弱まり、ヘルニアになることもあります]
正常な状態
子宮、ぼうこう、直腸など内臓は、それらを支持する役割をする骨盤底筋に支えられて正常な位置にあります。子宮をつる筋膜も子宮の位置を保持しています。
ヘルニアの状態
骨盤底筋に関連する神経が傷つき、骨盤底筋が緩むと、内臓が下がり、ぼうこう脱、尿道脱、子宮脱、直腸脱といったヘルニアになりやすく、排尿や排便、性交が困難になります。
[さらに悪化すると・・・]
子宮には常に腹圧がかかっています。子宮脱を放置すると、子宮の裏表がひっくり返って完全に外側に出てくる「完全子宮脱」となることがあります。股の間から子宮がぶら下がる様子から〝なすび″と呼ばれ、昔は銭湯に行くとその地域で適切な医療を受けていない女性が一目瞭然であったといわれています。
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嘉村康邦(よしむら・やすくに)先生
医学博士、日本泌尿器科学会認定専門医・指導医。四谷メディカルキューブ女性泌尿器科部長。福島県立医科大学卒業。専門は、女性泌尿器科、排尿障害一般。女性泌尿器科領域の手術療法に関しては常に最先端の技術を積極的に取り入れ、普及に努めている。