腰痛は多くの日本人を悩ませている病気で、その有訴者率(自覚症状のある人の割合)は男性で1位、女性で2位を占め、年齢が高いほど有訴者率も上がります(平成25年国民生活基礎調査)。それほど腰痛は身近な悩みなのです。
ヨーロッパでは"魔女の一撃"と言われる「ぎっくり腰」。個人差はありますが、何かの拍子で腰に"グキッ"とした痛みが走り、直後は日常生活もままならないことも。
この痛み、どのように対処したらいいのでしょう。予防法はあるのでしょうか。そこで日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医でもある東京都立多摩総合医療センター院長の近藤泰児先生にお話を伺いました。
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急激な痛みが走るぎっくり腰、特に初めて発症すると、日常生活をどのように過ごしたらいいか、どのように対処したらいいか、いろいろなことが不安になります。ここではそのような疑問にお答えします。
Q.ぎっくり腰はどのくらい痛みが続きますか?
A.通常は2~3日で強い痛みは改善し、2~3週間で日常生活がほぼできるようになっていきます。1週間たってもかなり強い痛みがあり、日常生活に支障が多いときや、2~3週間以上改善しない痛みが続く場合は、他の病気の可能性もあるので、医療機関を受診しましょう。
Q.腰が痛むときにお風呂に入ってもいいですか?
A.腰に負担がかからない体勢であれば、入浴をしても問題はありません。温まることで腰回りの血行が促進され、腰回りの筋肉のコリも改善されます。ただし、湯船につかる体勢が痛みを増強するようでしたら、立ってシャワーだけにするとよいでしょう。痛みの程度に合わせてください。
Q.ぎっくり腰で安静にしている間、お酒は飲んでもいいですか?
A.お酒を飲むと腰の痛みが悪化するという報告はありません。しかし、飲み過ぎには注意が必要です。酔いが回ると気持ちが大きくなったり、痛みに鈍くなったりして腰に負担が大きい動きをしてしまう可能性があるからです。少量にとどめておくのが良いでしょう。
Q.整骨院や接骨院、カイロプラクティックなどは、ぎっくり腰の改善に効果がありますか?
A.効果は科学的には立証されていません。ただ、腰痛はストレスも原因の1つになるので、施術を受けることが自分にとって気持ち良いのであれば、施術を受けても良いでしょう。ぎっくり腰の痛みの原因により、施術に効果があるかないかは変わると考えられます。民間療法で治るものは、背筋の疲労、椎間関節の捻挫など、椎間板(ついかんばん)以外に起因した比較的軽い症状の場合が多いと思います。
Q.市販の痛み止めの薬を飲んでもいいですか?
A.頭痛薬や鎮痛剤など市販の痛み止めを飲んでかまいません。薬の効能書きのところに、腰痛が挙げられているものもあり、ぎっくり腰の場合は市販薬で十分です。ぎっくり腰をおこしてまだ間もない時期に、腰が痛いのに無理をして病院に行くよりは、使用上の注意を読んで常備薬を飲み、2~3日の間様子を見てかまいません。
Q.ヒールの靴は腰に良くないですか?
A.ヒールが高いと腰痛が起きるかは科学的な根拠はありませんが、かかとの位置が上がることで腰椎(腰の骨)が前方に曲がってしまうため腰に負担がかかると考えられます。また高いヒールは足元が不安定になり、転倒のリスクも高まります。スニーカーなど平らな靴が理想ですが、ヒールの靴を履く場合は高さ2~3㎝までのものが良いでしょう。
取材・文/ほなみかおり
近藤泰児(こんどう・たいじ)先生
東京都立多摩総合医療センター院長、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医、日本整形外科学会認定専門医・認定脊椎脊髄病医。1979年東京大学医学部卒業。都立駒込病院整形外科骨軟部腫瘍外科部長、東京都立府中病院(当時)副院長などを経て、2013年より現職。著書に『腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症 正しい治療がわかる本』(法研)、『わかる!治す!防ぐ! いちばんやさしい腰痛の教科書』(アーク出版)など。