「今から14年ほど前のクリスマスイブの思い出です。新婚だった私たち夫婦が住んでいたマンションには、大家さんも住んでいました。引っ越して1年ほどたったクリスマスイブの夜のことです。夫と2人、ちょっと豪華な夕食を自宅で楽しんでいると...」

■大家さんは70代の女性。家賃も光熱費も手渡しで!
今から14年ほど前、新婚当時住んでいたマンションの大家さんの話です。
そのマンションはとある一族会社の持ちビルの一室で、4室あるうちの3室は会社の一族の方が住み、残り1室を賃貸として貸し出していました。
結婚することになり、新居を探していた私たち(当時私29歳、夫31歳)。
「家賃も今時手渡しだし、電気代もビルで一括で払っているから、大家さんから部屋の電気代を計算した請求書をもらって、その金額を大家さんに直接渡すんですよ。若い人は面倒だといって嫌がるんですよね...」
不動産屋さんからそう言われつつも、相場よりやや安めの賃料に魅かれ、そこに住むことにしました。
そして入居日、午前中に搬入をしていると、さっそく大家さんがいらっしゃいました。
70代くらいの女性で、会社が施工会社だったためか作業着を着こなし、やや低めな声が印象的です。
「このビルは、ほとんど親族が使っていまして。子どもがいる家もあるから、うるさいかもしれません。ご容赦ください」
ハスキーボイスの静かな口調でわびた後、「私は部長と呼ばれています」と話してくれました。
私たちも部長とお呼びした方がいいのだろうか...。
そんなことを思いつつも、それもさすがに変だと思い、本人には「大家さん」と話しかけつつも、夫との会話の中では「部長」と呼ぶようになりました。
それから毎月一度、家賃と電気代を部長さんに渡しにいくようになりました。
電気代も手渡しなので、1円玉が足りないからお金を崩さないといけないなど多少手間なことがありましたが、そのうち慣れました。
勤めていた会社の始業時間が遅めだったため、私が家賃を渡す役目になり、出社時に1階の部長さんがいる会社に寄って手渡ししていました。
私は人見知りなため、はじめは緊張していましたが、渡すときもそんなに親しく話すわけではないため、それほど億劫に感じなくなりました。
程よい距離を保った、理想的な大家・住人の関係だと思います。
そんな日々を過ごし、引っ越して1年ほど経ったクリスマスイブの夜のことです。
私たち夫婦は外食ではなく、家でいつもより豪華なご馳走を食べていました。
夜8時、突然玄関のチャイムが鳴りました。
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