「還暦を迎える誕生日のことです。妻は私の誕生日を忘れているのか、出かけ先から電話してきて、夕食を済ませて帰るね、というではありませんか。夫婦の愛情も薄れていくものだなと寂しく思っていたのですが...」
■還暦の誕生日。まさか一人で過ごすことに...
2021年の末のことです。
カレンダーが最後の1枚になると感慨もひとしおでした。
12月生まれの私はいよいよ還暦を迎えます。
それなりに生きていれば誰もが通る瞬間ではありますが、我が事となるとやはりぐっと来るものがあります。
「ああ、いよいよ今年も最後の1枚か、ほんと1年って早いよね」
妻(57歳)がカレンダーを見ている私の背後から声をかけてきました。
「全くだな。門松は冥土の旅の一里塚ってな、めでたくもあり、めでたくもなし、だ」
「また墓場に近づいたってわけ? 年取ったもんよね、お互い」
のんきな調子の妻に「あれ? まさか、気づいてない?」と不安に駆られました。
そうは言っても、さすがに人生の転機の一つ、忘れちゃいないだろうと思いながら誕生日当日を迎えました。
「何だ? 遅くなるのかな? 大事な日だってのに...」
最近、認知症気味の義父(84歳)の世話をするために、義実家で過ごす時間が増えた妻でしたが、夕食の時刻になっても帰ってこなかったのです。
ヤキモキしていると電話が鳴りました。
ナンバーディスプレイで義実家からだと分かりました。
「すっかり遅くなっちゃったから、夕食済ませて帰るね」
妻の言葉に耳を疑いました。
「え? ...あのさ、今日、何の日か覚えてる?」
我ながら情けないほど、ぼやき気味の声で問い返した私。
「え? なんかあったっけ? ...とりあえず、夕飯は済ませておいてね、じゃ」
なんとも寂しい返事で電話は切れました。
- ※
- 健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
- ※
- 記事に使用している画像はイメージです。