「60代の男性です。愛犬家がますます増えている昨今、犬の散歩を日課としている方は多いと思います。しかし、そこまでこだわらなくてもいいのでは? と首を傾げたくなる飼い主もいます」
■地区の行事にすべて参加のAさん。懇親旅行だけ欠席する理由は...
直接の面識はないのですが、地区に住むAさん(70代)のことをよく知っています。
習慣にこだわりがあることで有名だからです。
Aさんはとても地区愛が強く、お祭りであれ、奉仕作業であれ、ほぼ全てに参加されているそうです。
しかし、彼が唯一参加しない行事があります。
それは地区の懇親旅行です。
年に1回、近場の観光地を訪れ、1日楽しく過ごしてくるというもので、いかにもAさんが好みそうな行事なのですが、誰もがその理由を聞くと納得するそうです。
「行きたいのはやまやまなんだけど...朝夕の散歩ができなくなっちゃうでしょ」
Aさんの習慣は「犬の散歩」なのです。
Aさんは大型犬を飼っていて、彼はこの犬の散歩を1日2回、欠かさず行うのだそう。
この「欠かさず」を徹底していて、正月だろうがお盆だろうが関係なく、365日、雨の日も雪の日も欠かさないというのです。
伝説的な噂はいくつも耳にしていて、インフルエンザで高熱が出ても散歩していたのもそのひとつ。
寒風吹きすさぶ冬の日だったそうですが、布団のような綿入れを羽織って、足取りもおぼつかない様子で歩く姿を見かけて「Aさんが怖くなった」という話を聞きました。
コロナが流行っている頃も、この習慣は続いていたそうです。
本人がマスクをするのは当然ですが、犬用のマスクも誂えて装着させていたとのこと。
また、大雪であろうともこの習慣は貫かれます。
膝まで潜るぐらいの大雪が降った日、犬に引きずられながら散歩していたAさん。
それ以来、彼はスノーシュー(かんじきのようなもの)を用意して備えているという噂です。
■犬のおかげで命拾い!? それって犬のせいでは...
極めつきは2019年の大雨のときです。
このときは近隣で大きな被害がいくつも出て大騒ぎでした。
地区内でも田の水が溢れて、膝まで冠水した道もあちこちに出ました。
しかしAさん、これをものともせず、いつもの習慣を遂行したとのこと。
ただ、この時は大雨で用水路がすっかり見えなくなっていました。
Aさんはこれに気づかず、転落してしまったのです。
あわや溺死かと思われた時、犬がAさんを用水路から引きずり出し、九死に一生を得たとの美談が伝わってきました。
「犬のおかげで命拾いした、毎日散歩してやっている恩を返してくれたんだ」
Aさんは興奮気味にこう吹聴していたそうです。
私に言わせれば、そんな危険な日に出かけるほうがどうかしていると思いますし、それが犬を飼っているせいだとすれば「犬のおかげで死にかけた」が正しいでしょう。
今日もAさんは、意気揚々と朝夕の散歩を続けているのだと思います。
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