「60代の女性です。台風によって停電となったある日、父が暗闇の中である曲を奏でてくれました。いまでもずっと大切な思い出となっています」
アラフォー、アラフィフ世代の女性を中心に、実体験エピソードを寄せてもらいました。年齢を重ねると健康や人間関係、お金などさまざまな問題が発生しますが...。あなたならこんな時、どうしますか?
■台風が直撃して停電した我が家で起きたこと
いまから20年ほど前、私が43歳のとき、夜に大きな台風が直撃しました。
猛烈な風と大雨で外が大荒れの中、突然停電してしまい、慌ててろうそくを用意しましたが、日頃明るい中で生活をしていると、ろうそくの明かりだけではあまり見えません。
台風の情報を知りたいと思っても、電池で動くようなラジオは手元にありませんでした。
そんな中「あっ! そういえば、手回しで充電のできるラジオがあったよね」と思い出した私は、ろうそくの明かりでそれをなんとか探し出しました。
手回し充電のラジオは、本体についているレバーのようなものを回すと充電ができます。
ただ、100回ほど回してみたのですが。スイッチをオンにしてもうんともすんとも音はなりません。
200回、300回、1000回と回してみましたが、やっぱりスイッチをオンにしても「シーン」...。
母と「もうこれは寝るしかないよね」と諦めていたのですが、そのとき、突然ピアノの音が聴こえてきたのです。
■闇夜の中、忘れられない父の演奏
その音は、父(当時76歳)が密かに練習をしていたベートーヴェンのピアノソナタ「月光」でした。
この「月光」は、父にとっては子どもの頃からの憧れの曲だったと後に知りました。
小さい頃の父は、木製のミカン箱に乗って、指揮者の真似をよくしていたのだそうです。
父は「月光」を絶対に弾けるようになりたいと、60歳を越えてから練習を始めたそうです。
ピアノ未経験でカチンコチンに固くなっている手を一生懸命に動かし、一音一音、何度も何度も...。
楽譜を読むこともできませんから、全部暗記です。
そんな父が、停電の中でピアノを披露してくれたのです。
停電で静かになった夜、父は美しい旋律を奏で、私たちはその演奏に魅了されました。
暴風雨もいつしか止み、静けさの中響き渡る父のピアノ...驚きと感動が混ざった特別な時間となりました。
それから7年後、私が50歳のときに父は83歳で亡くなりました。
大好きだった曲で送ってあげたくて、私は父のお葬式で「月光」を演奏しました。
来ていただいた方々がみな父のことを思い、涙してくださいました。
そのとき、私はずっとあの停電の夜に聞いた父の「月光」を思い出していました。
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