<この体験記を書いた人>
ペンネーム:なんとも
性別:女性
年齢:54
プロフィール:私+夫+高3長男+高1長女の4人家族。子どもたちは生意気盛り。ついついガミガミと怒ってしまう毎日です。
50代半ばの主婦です。
今から8年くらい前、私は自営の夫を手伝いつつ、とある建設系の会社に事務パートとして採用されました。
小さな会社だったので、事務職の他に掃除・雑用・お弁当の買い出し等、業務内容は社内の便利屋といったところ。
終業時刻間際になると、ゴミを集めて帰り支度をするのが私の日課でした。
各デスクを回って、担当者に断ってゴミ箱の中身や不要な書類を回収します。
小さな事務所なので、ものの2〜3分で終わりそうな作業なのですが、1人だけ、とにかく手間がかかる方がいました。
その人は私より10歳年上の経理課長。
毎日大量の書類を扱うので、夕方には机の上やゴミ箱が山盛りになるのが常でした。
机には捨てる物と残す物が混在しており、私がゴミを回収しようとするとあからさまに嫌そうな顔をします。
「はあ? ちょっと待って! 今忙しいんだけど?」
毎日文句を言ってきて、ときには私も仕事を手伝うハメになったこともありました。
こう書くと、気難しく融通が利かない人物に思えますが、何故か周囲から厚い信頼を寄せられている不思議な人。
口が悪くて苦手なイメージでしたが、慣れてくると気さくな性格でした。
「待ってた! 仕分けヨロシク~」
「え~!? もう定時ですけど!!」
ゴミ回収に回る私を見つけると、すました顔でこき使おうとします。
私はぶーぶー言いながら、課長のゴミ仕分けを終業間際ギリギリまで手伝う毎日。
なんだかんだで面白い人物でした。
そんなある日のこと...私は大失態をやらかしてしまいました。
凡ミスが原因で、客先に迷惑をかけてしまったのです。
幸い客先の厚意で大事には至りませんでしたが、当然の社長と担当の営業は渋い顔。
お局先輩はネチネチ嫌味三昧。
ギスギスした空気をみんなが察し、事務所の中は完全に凍りついていました。
「申し訳ありませんでした。以後注意します...」
と言い切るのが精一杯だった私は、耐えきれず「ちょっとお手洗いに」とその場をあとにしました。
資材倉庫の隅っこに隠れて、子どものようにベソをかきながら固まっていた私。
事務所に戻りたくなくて、その場にぼーっと突っ立っていたら聞き覚えのある声がしました。
「〇〇(私の名前)さーん」
「...?」
私を呼ぶ経理課長の声が倉庫の外から聞こえてきました。
「ほら! もう終業時刻になるよ! サボってないで! 早くゴミを集めてくれないと机の上、片付かないよ〜! こき使える人がいないと困るんだけど!」
彼はいつもの口調で言いたいことだけ言って、事務所に戻って行きました。
「こき使われてやるか...」
私は落ち着きを取り戻し、事務所に戻っていつものようにゴミの回収を始めました。
課長の机の上は誇張でもなんでもなく、本当に山盛り。
「〇〇さんが仕事サボるから、全然片付かないんだけど~」
課長は私に気付くとニヤニヤしながら言います。
「すみませーん」と、私は軽く言い返せるくらいに元気になってました。
落ち込んでいたときに優しい言葉でなぐさめられていたら、私は泣きじゃくり仕事にならなかったでしょう。
課長はあえて普段通りの態度と口調で、彼なりに私を気遣ってくれていたのです。
そうでなければ、わざわざデスクを離れて私を探しに来ることなんてないでしょう。
凍りついた事務所の空気を一変させてくれて、感謝しかありません。
確かに、口が悪い課長ですが、本当は思いやりにあふれた優しい方なのだと思います。
課長がなぜ周囲から厚い信頼を寄せられているのか、分かった気がした一日でした。
その後、私は家庭の事情で自主退職。
風のうわさでは、あの課長はなんと代表取締役に就任したとのこと。
私はウンウンと納得し、心の中で課長...いえ社長にエールを送りました。
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