<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:毎年母の日が近づくと必ず盛り上がる話題の一つです。もちろん娘は嫌がりますが...。
娘が小学校4年生のときですから、2004年の母の日が近づいた日のことです。
「もうすぐ母の日でしょ! その日は何でも好きなものを晩御飯に作ってあげる!」
そんなことを娘が言い出しました。
日頃は全く料理などしないので、妻(当時40歳)ともども驚いて聞き返しました。
「大丈夫なの? まだ家庭科も習ってないでしょ?」
「大丈夫、大丈夫、ばあちゃんちで教わってるからね」
当時、下校後は義実家で預かってもらっていました。
義母(当時はまだ存命で60代でした)から料理を教わっている話は初耳でした。
まあ、おやつでも作っていたのかも知れません。
「へえ、見直したわ...だったら、酢豚かな?」
「酢豚ね! OK! 任せといて!」
そう言って胸を叩く娘の姿を、目を細めて見ている妻の笑顔は本当に嬉しそうでした。
「さあさあ、お母さんは買い物でもしてきて!」
母の日当日、娘は妻を送り出しました。
家にいて手を出されたら、せっかくのプレゼントが台無しだからというのが理由です。
妻を送り出した後、娘は私の方に向き直って言いました。
「でさ、酢豚って、どうやって作るの?」
「は? お前、知ってるんじゃなかったのか?」
「そんなぁ、やったことないのに知ってるわけないじゃん!」
なんと娘は、何の予備知識もなく酢豚のリクエストを受けていたのです。
そんなこと急に言われても、こっちだって料理はからきしです。
当時はまだインターネットが普及しておらず、あわてて書店に走って料理本を買いました。
「ふうん、けっこう材料がいるんだね」
今さら何を言ってんだ、の感想をこぼす娘。
「じゃあ、材料を揃えましょうか、お父上」
彼女がお父上と私を呼ぶのは、何かと頼みごとをするときです。
スーパーに一緒に行き、タケノコやら、ニンジンやら、豚肉やら、料理本にあるとおりに買い集めました。
ちなみに、このとき生まれて初めてオイスターソースというものも買いました。
この買い物だって、娘は本を見ながらあれだこれだと言うばかりで、物を探すのはもっぱら私の役割でした。
家に戻って作り始めると、娘は包丁が怖いと言い出しました。
「ばあちゃんに教えてもらってるって...」
「茹でたりするときに火を点けるぐらいだよ、教えてもらったのって」
それは料理とは言わんだろ、と突っ込みたいのをぐっとこらえて、下ごしらえまで私の仕事になりました。
娘はピーラーでニンジンの皮を剥いたぐらいです。
調理に入ったら少しは頑張るかと思ったのですが、そうでもなかったのです。
「やだ! この油、はねるよお!」
そう騒ぎ出して、豚肉の素揚げは台所の隅で見つめていただけ。
「重いよぉ! 上手くかき混ぜらんないぃ!」
悲鳴を上げて、炒めようとしたのもはじめの一瞬だけでした。
「うん、これは任せて!」
そう言って自ら手を出したのは、最後に合わせ調味料を流し込む瞬間だけでした。
苦闘の挙げ句(苦闘したのはほぼ私ですが)なんとか酢豚が出来上がりました。
どうにか夕食の時間に間に合い、頃合いを見計らって帰宅した妻を娘がうやうやしく食卓へと招きました。
「うわあ! 美味しい! すごい上手だね!」
酢豚はまずまずの出来でした。
妻は娘が作ったと思っているのでべた褒めです。
弟(当時2年生)も褒めます。
「ほんとだ、姉ちゃん、美味しいよ」
弟は事情は知っているのですが、姉に固く口止めされていたので懸命の演技です。
悲しいほどに棒読みでしたが...。
「でしょ? 大変だったんだから!」
娘は得意満面です。
私は孤軍奮闘の調理体験に疲れ切っていましたが、嬉しそうな妻と、満足げな娘を眺めながら、まあこういうのもありか、と一人納得していました。
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