<この体験記を書いた人>
ペンネーム:ウジさん
性別:男性
年齢:60
プロフィール:まだセクハラなんて言葉もそれほど一般的ではなかった頃、わが町には強者の教育長さんがいらっしゃいました。
私は15年ほど前、町の教育委員会に勤めていました。
その頃、町の教育長を務めていたのは元中学校の校長先生で、当時60代後半の人物でした。
面倒見がよくて相談しやすく、気持ちよく仕事も引き受ける、周囲の評判はなかなかの人物でした。
しかし、女性に対する考え方がちょっと...。
「女のくせに、まともにお茶も入れられないのか?」
あるとき、職場に教育長のだみ声が響きました。
嫌味を言われていたのは若い女性職員(20代前半)です。
どうやら来客に出したお茶が濃すぎて不満だったようです。
教育長は、若い頃は女子バレー部の指導者として厳しく指導していたのが自慢で、「女のくせに...」というのは彼の口癖でした。
今なら大問題の発言でしょう。
しかし、まだセクハラなんて言葉も珍しかった時代です。
周囲の職員は眉をひそめつつも、触らぬ神に、とばかりに見て見ぬふりをしていました。
そんな中、涙ぐむ女性職員の後ろに40代後半と50代前半の女性職員が近づき、教育長を見ながら言いました。
「じゃあ、もうお茶は入れなくていいですね」
「お好みの美味しいお茶をご自分でお入れになってください」
2人はそう言って、若い職員を慰めながら立ち去りました。
それからしばらくの間、いかなる場面でも女性職員によるお茶出しはなくなってしまいました。
来客の際は放っておくわけにもいかず、私や他の職員がお茶を入れていくのですが、教育長は顔をしかめます。
「〇〇さん(年輩の女性職員です)に持って来させて」
名指しされ、やむなく説得に向かうのですが、女性職員のみんなも頑固でした。
「教育長先生が直々に頭を下げるのなら」
そう切り返されて撃沈...とはいっても、来客にお茶も出さないわけにはいきません。
「ウジさん...お茶を頼む...」
ついに教育長は「お茶くみは女の仕事」という自論を曲げ、私など手近な男性職員にお茶出しを頼むようになりました。
コピーについても一悶着ありました。
「おい、コピーを頼む。...誰か、手の空いてる人...」
どんなに忙しいときでもコピーは女性にしか頼まなかった教育長。
こういう頼み方をするようになったのは、お茶出しのことがあってから間もなくでした。
どうやら「コピーなんて女の仕事!」と言い切ったのが、女性職員の逆鱗に触れたようでした。
変化があったのは、お茶出しやコピーだけではありません。
それまで、朝の清掃は自発的に女性職員がやっていました。
しかし、若い男性職員が清掃を手伝っているのを見て、教育長がこんな失言をしてしまったのです。
「おい、男子たるもの、掃除なんかに手を出すもんじゃない!」
それを聞いた女性職員たちに「公平にすべきことでは?」と詰め寄られて、すぐさま教育長が折れました。
結果的に「朝の室内清掃ですけど、全職員の輪番にしましょう!」が結論です。
その後も、女性職員たちは教育長に厳しく当たり続けました。
教育長の威光は陰も形もなく、男性職員だけの飲み会で「全く、教育委員会の女性職員は女のくせに生意気なのばかりだ!」と息巻いて、溜飲を下げるのが関の山だったようです。
町長さんが選挙に破れたのを機に、教育長も新しい方になり、在任期間は2年ほどでした。
お別れ会では女性職員から花束を贈られ、添えられたカードには、「教育委員会の男女平等に大きく貢献いただき感謝します」と記されていたとか、いなかったとか...。
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