48歳のナミコさんは「自分は親の遺産をどれくらいもらえるのか?」と日ごろから気になっていました。「うちは大した財産はないだろうし、当てにはしてない」と思いつつ、自分がもらえないとわかったら心穏やかではいられないはず...ナミコさんはそう考えていました。そうこうしているうち、78歳のお父さんが遺言書を書き始め...。
※実際に身の回りで起きた実体験エピソードに基づき構成しています。
父(78歳)が、遺言書を書くと言い出しました。
兄(53歳)からその内容を聞いたのですが、私(48歳)も弟(45歳)も驚きを隠せませんでした。
父は、財産のすべてを母(70歳)に遺すというのです。
母は、私たちの実の母親ではありません。
実母は病気で早くに亡くなり、父は38歳のときに今の母と再婚したのです。
父は一代で惣菜店を築いており、家族5人が何とか生活できるくらいの稼ぎでしたが、それなりに繁盛している店です。
家業を継いだ兄は遺産について期待も大きかったのか、「俺にはもらう権利はある」と言うだけでなく、「もともと財産目当てで結婚したんじゃないか」とまで言い出す始末。
弟は弟で、総菜屋とは無縁の会社員生活を送っているのに「俺にだって権利はあるはずだろ」と主張し始めました。
一方の私も会社員なのですが、帰るのは正月くらいと実家とは関わりが浅くなっており、遺産についてはそれほど強い思いはない、というのが正直なところ。
数日後、家族5人が顔を揃えました。
兄と弟が自分たちにも相続の権利があると主張すると、普段は温厚な父が「お前たちがとやかく言う権利はない!」と怒鳴り声を上げたのです。
「やめてください! 家族で争いをするくらいなら、私は財産なんていりません」
母が涙ながらに父に訴え、その場が静まり返りました。
すると父が「母さんはな...」と口を開いたのです。
「わしと結婚した時、自分の子は持たないと決めたんだ。平等に愛情を注いでいるつもりでも、お前たちを傷つけてしまうかもしれないからって」
私たちは驚いて母を見ると、うつむいて体を震わせています。
「自分が死ねば、母さんには身寄りがなくなってしまう。わずかな財産だけど、そんな母さんのために遺してやりたいんだ。分かって欲しい」
頭を下げる父を前に、兄も弟も何も言えなくなりました。
母は父と結婚してから私たちのために身を粉にして働き、愛情を注いでくれたのです。
私たちが子どもの頃、病気になると、母は寝る間を惜しんで看病してくれました。
逆に、母の方が体を壊すんじゃないかと心配なくらいに。
そんな恩も忘れて、私たちは何を言い争っているのだろう。
「ごめんなさい」
私たちは、涙ながらに母に抱き着きました。
そこにあったのは、子どもの頃から変わらない母のぬくもりです。
その後、私たちは相続放棄をしました。
父の遺言書から起こった揉め事でしたが、逆に私たちは母を支えていこうと心に誓ったのでした。
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