通い続けて何十年。おもてなしを感じるホテルの思い出

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ペンネーム:さすらいのケメコ
性別:女
年齢:54
プロフィール:国内旅行か海外旅行かと聞かれると、私は国内旅行の方が好きです。それは日本に「おもてなし」の文化があるから。

※ 毎日が発見ネットの体験記は、すべて個人の体験に基づいているものです。

◇◇◇

子供の頃、我が家では「旅行」というと、箱根か熱海でした。箱根には母の会社の保養所が3棟あり、熱海にはよく利用していたホテルがあったからです。同じホテルや保養所ばかり利用しないで、違う所も行ってみればいいのですが、私の両親はそこがお気に入りで、「他の所に宿泊しても落ち着かない」とよく言っていました。

保養所もホテルも、スタッフの皆さんは私たち家族をよく覚えてくれていて、食事の時には好みのドリンクを用意してくれたり、子供にはアイスクリームを用意してくれました。「なにも言わなくてもわかってくれる」というのが、両親の安心感に結びついたのでしょう。

箱根の保養所では、私が到着するたびに「ケメコちゃん、大きくなったねえ」といってくれたものです。そんな箱根の保養所ですが、会社の経営不振によって1棟ずつ売られていき、知らないうちにほとんどなくなっていました。

残ったのは熱海のホテルだけ。初めてこのホテルに行った時は、高級感溢れる立派なホテルでした。ですが、やはり何十年も通い続けていると、高級な革製のソファーにほころびが見られるようになり、白い壁は褐色化していきました。それでも両親は熱海のそのホテルを気に入り、保養所がなくなってからは、さらに同じホテルをまるで別荘のように利用するようになったのです。

古くなっていくホテルですが、それでも魅力的なところがいっぱいあり、特に食事の時には大きな窓から見える海が本当に素敵でした。夕食は5時頃からと6時半頃からの2つに分かれますが、我が家では早い食事時間を選んでいました。特に夏に見る海は、夕陽が徐々に沈んでいき、そのオレンジの光がホールいっぱいに広がり、夕食の時間を演出してくれるのです。バンドの生演奏を聴きながら、熱海の魚介類を食す贅沢がなんともいえません。

食後には昭和の雰囲気が漂う屋台街が館内にオープンし、焼き鳥やラーメン、居酒屋、駄菓子屋、カラオケスナックなど、まるで街のようにネオンが並びます。客室から温泉に行くにはそこを通っていくので、多くのお客さんが温泉に浸かった後ネオン街に立ち寄っていました。毎回同じホテルに宿泊しながら、「今回は焼き鳥を食べよう」「今日はカラオケを歌って帰ろう」など、行く度に違うお店で楽しむのも魅力的です。

このホテルに安心して宿泊できたのは、何よりもホテルが大切にしている「おもてなし」が素晴らしいから。私たち家族の名前や好みを覚え接してくれる「おもてなし」が、別荘のように通い続けることになった理由なのでしょう。今では父が他界し母は寝たきりなので、もう両親と旅行をすることはできませんが、また機会があれば行きたいと思っています。

健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
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