「乳がんの疑いがあり、精密検査を受けることになった妻。普段は明るいのですが、涙を流すことが多くなりました。ちょうどその頃、夜中に妻が寝室を抜け出すことが多くなったのです。心配になった私は、気付かれないように様子を見にいくことにしました。そこには、テーブルで何かをノートに書き込み、サイドボードにしまっている妻の姿があって...」

■妻が密かに用意していたエンディングノート。夫が誓ったことは
「ん? また、起きてるのか」
実は、検査の日以来、たびたび夜中に妻が起き出しているのには気付いていました。
1人になりたいかも、と寝たふりをしていましたが、夕食のときのことを思い出してふと心配になり、様子を見に行きました。
ダイニングテーブルで何かノートに書き込んでサイドボードにしまっている妻の姿がありました。
声をかけにくい雰囲気を感じて、その場はそのままベッドに戻りました。
妻がベッドに戻り寝ついたのを確かめて、そのノートを確かめることにしました。
それは妻のエンディングノートでした。
「あいつ、こんなもの書いて...」
悪いとは思いましたが中を覗いてしまいました。
海外に行きたいとか、演劇を観たいとか、やりたいことが並べてあります。
そういえば最近は旅行にも行ってなかったなあ、などと思いながら眺めていて、ふと目がとまりました。
「煮物を大量に作って冷凍保存しておく」
なんて書いてあります。
なんだ? と思いましたが、妻の煮物は私の大好物だということに気付きました。
そう思った瞬間、涙があふれて止まらなくなりました。
妻を失いたくない、もしもそれがかなわないなら、彼女の願いはすべてかなえてやりたい。
そんなことを考えながら、妻に気付かれないようにそっとノートを戻しました。
2週間後、検査結果が届きました。
「...よかったあ!」
妻の表情がみるみる明るくなりました。
結果は良性の腫瘍、特に治療の必要なし、とありました。
「だから言っただろ。お前に悲劇の主人公は似合わないよ」
「え! このか弱い私をつかまえて失礼なことを!」
2人で顔を見合わせて吹き出してしまいました。
正真正銘、普段通りの生活に戻り、あのノートのことはお互いに秘密のままです。
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