「ステージ4の膀胱がんと診断された父は、『この年だし、進行は遅いだろう』と手術を見送る選択をしました。ちょうどそのとき、私は結婚10年目にして妊娠。そのことを父に告げると、クシャクシャの笑顔で喜んでくれました。そして、飲んでいたお茶もそのまま、行く先も告げず、どこかへ行ってしまったのです」

■ステージ4と診断された父。手術をしない選択をしたが...
「おしっこに赤い血みたいな筋が入ってるんだよね...」。
74歳になる父がボソッと言った。
「そうなの? 病院行ったほうがいいよ」と言って自ら一人で病院へ行く人ではない。
私はすぐ父を病院に連れていった。
結果は膀胱がんでステージ4だった。
父は、これまで色々な病気をして、父のおなかは手術痕だらけだった。
父は膀胱がんの手術をしないと選択した。
代々男性は72歳で亡くなっている家系なので「俺は2年も得したから、このままでいい。歳をとってるから進行も遅いだろう」と言って笑った。
それと同時に、私は結婚10年目にして初めておなかに赤ちゃんが宿った。
父の生まれ変わりなんて絶対に思いたくない!と縁起でもないことを思った。
父の血尿騒ぎで、おなかの赤ちゃんのことを言いそびれていた私は「そう言えば! 発表があります!」と朝ごはんを食べ終えてから言った。
父は大きな湯呑みを机に静かに置いた。
その動作を待って「赤ちゃんできました!」と言うと、父はまばたきをせず私をじっと見据えた。
私が大きくうなずくと「バンザーイ」と両手を高く上げて、クシャクシャの笑顔で喜んだ。
そして、飲みかけのお茶もそのままに、行き先も言わずどこかへ出かけてしまった。
何時間も帰ってこず、夕方ひょっこり帰ってきた。
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