「ステージ4の膀胱がんだった父。はじめは、手術をしない選択をしましたが、私が妊娠したことを告げると、手術を受ける決意をしました。孫ができたおかげで生きる力が湧いてきた父は、その後の10年間、すべてを孫に注ぎ込み旅立ちました」

■孫との最後の会話は...
「どこ行ってたの!! 心配するじゃない!!」と言うと「手術の予約してきた」と照れたように言った。
手術は8時間かかり、入院も長く、父は手術を選択したことを後悔する言葉を吐いたりしたが、私のだんだん大きくなっていくおなかが何よりの薬となり、無事退院した。
その数カ月後に無事、元気な男の子が生まれた。
父はまだ赤々とした手術痕を手で押さえながら産婦人科に毎日通っては、待ちに待った待望の孫を大きな手のひらで包み込んで何時間も抱いていた。
孫ができたおかげで、生きたいと思う力をもらった父は、10年間すべてを孫のためだけに注いだ。
手を繋いで2人でお散歩に行く様子を玄関から見送るのが、私の人生で一番の忘れられない風景。
父は一番可愛い盛りの孫と一緒に過ごした。
「俺の役目はここまで。楽しかった」と言わんばかりに、加齢で徐々に体力がなくなり点滴でしばらく命を繋いでいた。
毎日病院にお見舞いに通った。
そんなある日、突然子どもが言った。
「今、お水を飲ませないと僕、一生後悔する」
孫がおじいちゃんに、スプーンにひとさじ飲ませた水。
父は目を開けて「あー、おいしい」と言った。
それが最後の会話。
そして最後に口にしたものだった。
亡くなる2日前の出来事。
84歳。晩夏。
病室の窓を開けて爽やかな風に乗って、天に昇った。
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