子どもの幸せを願う親の気持ちが、子どもにとってはプレッシャーとして伝わってしまう。そんな家庭内のすれ違いが、悲劇に繋がることも...。
自分と他人との間に生じる「認識のズレ」をテーマにした短編漫画で注目を集める漫画家・理系女ちゃん(@rikejo_chan)。SNSに新作を公開するたび、大きな反響を呼んでいます。
そんな理系女ちゃんのオムニバス短編集『あなたの正義 わたしの絶望 ~その「主観」が毒になる時~』から、今回はある親子の物語をご紹介。どの家庭にも起こりうる悲劇の物語について、著者本人にお話を伺いました。
■母親にとっては「最高の息子」
物語の主人公は、息子・春樹のことを「天才」だと信じて疑わない母親。3歳で小学生の算数問題を解いた息子を見て、自分は"特別な子"を産んだのだと確信し、息子が幼いうちから進学塾に通わせるなど教育熱心に育てます。

その結果、春樹は難なく受験に成功。やがて有名私立大学への入学も決まります。成績優秀なだけでなく、母の日に花束をプレゼントしてくれる優しさもあり、彼女は息子を「最高の息子」だと満足げに見守るのでした。

■息子にとっては「毒親」だった
ところが春樹の視点から描かれる後半からは、物語の様相ががらっと一変。実は春樹が勉強漬けの日々を送っていたのは、物心がついた頃から母の暴力を恐れていたから。

遊びや恋愛を禁じられ、まるで人形のように育てられた春樹は、母親から離れて新たな人生を送りたいと心から望んでいました。

■視点によって異なる「真実」。どちらが「事実」なのか?【著者インタビュー】
──前半だけ読むと、少し過保護な母親と素直な息子という素敵な親子に見えました。まさか後半であんな展開になるとは...。我々読者は息子視点で描かれた後半を「事実」と受け取ってしまいがちですが、それで良いのでしょうか?

理系女ちゃん:息子視点で描かれた後半は、もちろん息子の主観によるものです。そのため、完全な「事実」として受け取るかどうかは読者に委ねています。ただ、母親の視点では息子は「完璧な存在」ですが、それは美化された記憶でしかなく、息子自身は母親との関係に苦しんでいるのは事実なのだと思います。
──この作品を読んだ読者に、どのようなことを考えてほしいですか?

理系女ちゃん:親の愛情や期待がどのように子どもに影響するか、そしてそれが必ずしもポジティブなものではないことについて考えてほしいです。また、親自身が子どものためだと思っていることが、実は自分の期待を押し付けているだけかもしれない、という視点も考慮してほしいです。読者に、親子関係の複雑さや、期待とプレッシャーのバランスについて再考してほしいと思います。
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母親に一方的な理想を押し付けられた結果、反抗もせずに人形のようになってしまった息子。不満を抱く息子の本心に、母親はまったく気づいていないのか? 息子視点で描かれた事実が果たして真実なのか? 描かれていない物語の「余白」を楽しむことができる作品です。
取材・文=MK


