「良かれと思ってやっていること」が、実は相手をじわじわと追い詰めている。そんな、家庭内に潜む「ズレ」を鋭く描いた作品をご紹介します。

作者は、自分と他人との間に生じる「認識のズレ」をテーマに、数々の短編漫画を発表してきた理系女ちゃん(@rikejo_chan)。
SNSで大きな反響を呼んだ『先輩は綺麗な人だった』を含むオムニバス短編集『あなたの正義 わたしの絶望 ~その「主観」が毒になる時~』が、待望の電子書籍化を果たしました。今回はその中から、ある自称・完璧なイクメンな夫とその妻のエピソードをご紹介しましょう。
■あらすじ:「イクメン」は常識
「理想のイクメン」として活動する父親
まだ世間で男性の育休が一般的ではなかった頃、ある父親は「娘の成長を一番近くで見守りたい」と考え、育休を取って家事や育児に励んでいました。

彼は娘の成長を記録するためにブログを始め、多くの読者から共感を得るように。

また、娘の習い事の父母会にも積極的に参加し、運営のデジタル化して効率よく進めることで、他の母親たちからも頼りにされる存在になっていきました。

やがてブログがきっかけで取材や講演の依頼が届くようになり、彼は「もっと父親の育児参加が増えてほしい」という願いを伝える活動にも力を入れるようになります。
夫の陰で、妻が感じていた違和感
一方で、妻の視点から描かれた後半。理想的な父親のように見えていた彼の行動は、すべて妻の「お膳立て」があってこそ成立していることが描かれます。

夫はブログに載せるための見栄えがいい料理を作りますが、その後の散らかったキッチンの片付けをするのは妻。娘をお風呂に入れるのは夫の担当ですが、事前の浴槽掃除や風呂上がりの着替えなどの準備は、すべて妻がこなしていました。
さらに、父母会で張り切る夫の姿は、実は他の母親たちから少し煙たがられていることにも、夫自身は全く気づいていない様子。

「支え合い」という言葉への疑問
妻は、夫の行動を迷惑に感じていました。しかし、「夫のおかげで育児と仕事を両立できているのだから、不満を言ったら罰が当たる」と自分の気持ちを飲み込んでしまいます。
「支え合いって、一体何だろう」
夫が理想のイクメンとして輝けば輝くほど、妻はそんな深い悩みの中に沈んでいくのでした。
■作者:理系女ちゃんインタビュー
──前半だけ読むと理想的な夫・父親に見えました。まさか妻があんな風に感じているなんて...。彼のキャラクター設定を考えるうえで、特に気にした点を教えてください。
理系女ちゃん:一見すると理想的な父親に見えるようにしたことです。実情を知らない他人や本人からすると子ども思いのいい父親に見えるように物語の前半では描いています。しかしその内側には、「自分はできているぞ」と思いたい気持ちや、他人からの評価に慢心している部分もあります。SNS等で人生を「物語化」することが多くなった時代、子育てする自分や子どもを人に知ってもらいたいという気持ちは珍しくないものだと思います。

子育ては本来、親が脇役になる作業です。それにも関わらず「子育てをする自分」に少し酔ってしまう人、として彼を描きました。後半では彼には見えていなかった部分を妻の視点から描くことで、読者がもしかしたら自分も同じようなことをしていないかと考えられるようなキャラクターとして描きました。
──本作はsideAとsideBの二部構成になっていますが、一見するとsideBのほうが「正しい」と感じてしまいがちです。実際、どちらかが正しいという意識で描かれたのでしょうか。
どちらかを正しいとして描いたつもりはありません。夫が自身の子育てスタイルに対して自己満足的であることも問題ですが、妻も問題を直接扱わず、最終的には間接的な形を取ってしまっている点で非がないとは言えません。
あくまでも本作はどちらが正しいか、ではなくどうすれば問題は解消できるのか、また自身の対人関係を振り返るきっかけとして読んでいただければと思っています。
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「自分の頑張りは、本当に目の前の相手を笑顔にできているだろうか?」
一度立ち止まって、独りよがりな正義になっていないか客観的に見つめ直すことが、本当の支え合いへの第一歩かもしれません。
取材・文=MK

