飼い主とペット間の「老々介護」の問題を、真剣に考えるべき時が来ています。昨年12月に、動物看護師である井上瑞穂さんが、犬や猫の介護・看護する「CARE PETS 静岡店」を開業し、話題になりました。
井上さんは日本盲導犬協会に勤務している中で、飼い主とともに長生きするペットたちの介護の必要性を強く感じ、今回の開業を決意したといいます。それは、自身の加齢とともに、ペットの世話に限界を感じ始める高齢の飼い主が多いという事実に他なりません。
高齢の飼い主の方は万が一に備え、このようなサービスを選択肢の一つに考えておくのも手です。
人間とともに延びるペットの寿命
人間の寿命は、20世紀に入って飛躍的に延びました。医療や住環境の発達、食の充実など、生活全体の質が飛躍的に向上したことが理由ですが、そんな人間と共に暮らすペットの食・住環境も昔とは比べ物にならないほど発展し、結果としてペットの寿命も延びています。
ペット業界向け情報サイト『PEDGE』(ペッジ)内の「ペットの高齢化の現状と生ずる問題」と題された記事には、人間の高齢化に伴う「ペットの高齢化問題」について特集されています。記事によれば、2010年~2016年にかけて、人間の寿命の延びは1%前後だったにもかかわらず、犬は7.1%、猫は9.7%も伸びていたことが、ペットフード協会の「全国犬猫飼育実態調査」でわかったそうです。
昔から犬にとっての一年は人間にとっては7年に値する、という意味で「ドッグイヤー」と表現されてきました。実際に犬と猫の一年が人間の4~5倍に及ぶと考えれば、ペットたちがいかに急速に高齢化していくのかがわかりますね。
高齢飼い主が追いつめられるペットの介護
そうなると、問題になってくるのが飼い主とペットの「老老介護」問題です。
体力が落ちていく飼い主のさらに先を行くかのように、ペットは老化し、果てには病気になります。高齢者が体力も気力も落ちていく中で、他者の世話をすることは並大抵のことでありませんが、それは相手がペットでも同じこと。
2016年6月15日に配信された『ダイヤモンドオンライン』では、関東在住の90代の女性が飼っていた、認知症の愛犬の話が紹介されています。止まない夜鳴きに、一時は女性も一緒に死ぬしかないと考えるほど、精神的に追いつめられていたそうです。
動物の認知症の症状は、トイレの失敗を繰り返す・飼い主を認識できない・徘徊するなど多岐に渡ります。飼い主が高齢者だと、そのすべてに対応するのは難しいでしょう。今回、井上さんが提供を開始した犬・猫向け介護・看護サービスは、このようなときに飼い主の助けとなる、まさに長寿時代にピッタリのサービスではないでしょうか。特に最後まで自宅でペットを看取りたいと考えている飼い主には朗報でもあります。
最近は人の介護において、「自分(介護者)を追いつめない介護」という言葉があちこちで聞かれるようになりました。介護が辛いときには、誰かの手を借りることは罪ではありません。高齢飼い主とペットとの老老介護においても、飼い主としての自分を追いつめず、広い視野でペットに最善を尽くす方法・選択肢を用意しておいてみてはいかがでしょうか。
文/渡邉麗奈