インターネットや携帯のメールの普及で以前ほどは使われなくなったファクスだが、今でもファンは多い。
ファクスの起源は古く、電話よりも早い1843年にイギリス人が発明したそうである。しかし、当時の技術では雑音が入り込んで実用化に至らなかったという。日本で一般事務用として販売されたのは、それから1世紀以上も経った1973年である。
ファクスはスキャナーと信号処理用LSI、そして印刷機の三つを組み合わせた情報機器である。
まずは送信側から見てみよう。書類を読むのはスキャナー部で、これはパソコンで利用するスキャナーと同じである。文字や図を画像として光で読み取り、電気信号に変換する装置だ。「目」に当たるものはデジカメでも利用されているCCDだが、形状は異なる。CCDを長く一列に配置させたリニアイメージセンサーが利用されている。
スキャナーが読み取った画像はLSIで処理され、電話回線に送出される。現在のほとんどのファクスはG3(Group 3の略)と呼ばれる規格で、同規格にしたがって信号が圧縮される。この圧縮のおかげで、白紙部を高速に送ることができる。
受信側に目を転じてみよう。受信側のLSIは受け取った信号からG3規格にしたがって元の画像を再生し、内蔵のプリンターで印刷する。このプリンターもパソコンで利用されるのと同一のしくみである。
オフィス用の高級機は、コピー機やプリンターとしても使える複合機が主流である。しくみからわかるように、コピー機やパソコンシステムと共通する部品構成になっているからだ。
ところで、ファクスを手動で操作すると、最初にトンビの鳴くような「ピーヒョロロー」という音が聞こえる。これは、相手のファクスと「前制御」と呼ばれる情報を取り交わしているのだ。例えば、「これからA4の紙幅の原稿を送ります」というように、いわば挨拶を交わしているのである。
涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。
「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。