浴室の"曇らない鏡"の技術は道路の反射鏡にも使われている/身のまわりのモノの技術(31)【連載】

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風呂の湯気で鏡が見えなくなって困ることがある。このとき役立つのが曇り止めスプレーである。鏡をよく拭き、このスプレーを吹きかければ、鏡は元のようにクリアになる。どうして曇りを止められるのだろう。

鏡が曇るのは、鏡に無数の小さな水滴がつき、光が乱反射するからである。したがって、この水滴をなくしてしまえば、鏡は曇らないはずだ。曇りを解消するには、鏡に水滴をなじませてしまえばいい。すなわち、鏡の表面を親水化すればいいのだ。そうすれば、表面は平らになり、鏡は曇らない。その親水化の物質でできた製品が曇り止めスプレーなのである。

曇り止めスプレーには親水性ポリマーが利用される。親水性ポリマーはイオン性の有機化合樹脂で、鏡にとりついて親水性の膜を作る。こうして水滴は鏡の表面で平らになり、曇らなくなる。

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ただし、スプレーによる「曇り止め」には限界がある。時間とともに親水性ポリマーが剥がれ落ち、効果が消えてしまうからだ。そこで、最初から鏡に親水性の物質をコーティングしておく方法が開発されている。それが酸化チタンを利用する方法である。

近年知られるようになったことだが、酸化チタンには超親水と呼ばれる性質がある。酸化チタンに光を当てると、その周辺が高い親水性を帯びる、というありがたい性質だ。そのため、酸化チタンを鏡のガラス表面にまぶしておけば、鏡表面は親水状態を保ち、曇ることがないのだ。

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酸化チタンには超親水性以外にも、光触媒作用と呼ばれる頼もしい性質がある。酸化チタンの近くについた油膜などを、光の力を利用して酸化・分解する性質だ。つまり、鏡に汚れがついても、ひとりでに剥がれ落ちてしまうのである。おかげで、酸化チタンをコーティングした鏡は長時間防汚効果を保ち、良好の反射性を維持することになる。汚れのつきやすい道路の反射鏡に、酸化チタンをコーティングした鏡が利用されるのはこのためである。

涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。

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「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。

 
この記事は書籍「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」(KADOKAWA)からの抜粋です。

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