なぜ油を引かなくても目玉焼きが焼けるのか? フッ素樹脂加工のフライパン/身のまわりのモノの技術(28)【連載】

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最初のフッ素樹脂加工フライパンはテフロン加工という名称で販売された。「テフロン」とは米国デュポン社の登録商標だが、「焦げつかないフライパン」として評判になり、急速に販売を伸ばした。油を引かなくても目玉焼きができたり、油を使わずに肉をサラッと焼けたりして、「ヘルシー」という評価も高い。しかし、そもそもフッ素樹脂加工とは何なのだろう。

フッ素とは原子の名で、塩素と同じハロゲン元素の仲間。一般にハロゲン元素と炭素が結合してできた物質は安定している。例えば、上下水管に塩化ビニル樹脂が利用されているのは、そのためだ。塩化ビニル樹脂はハロゲンである塩素と炭素からできた樹脂である。この安定という性質は特にフッ素と炭素からできた樹脂、すなわちフッ素樹脂に際立だっている。

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安定の秘密を分子レベルで見てみよう。フッ素樹脂の分子構造は、紐状につながった炭素原子をフッ素が隙間なく覆う形をしている。フッ素は原子として小さく、炭素と引き合う力がたいへん強いという性質があるからだ。フッ素にびっしり取り囲まれた炭素の鎖は他の物質と反応できず、安定した性質を持つことになる。

ちなみに、フッ素樹脂以外でフッ素を原料にする有名な工業製品がある。フロンだ。これは、炭素とフッ素と塩素が結合した構造をしていて、テフロンと同様、化学的にきわめて安定している。冷蔵庫やエアコンの冷媒として利用されていたが、紫外線に当たると分解し、生成された塩素がオゾン層を破壊するということで、環境問題を引き起こした。最近は改良された代替フロンが利用されているが、今度は地球温暖化をもたらすということで、使用制限が求められている。

テフロンとフロンをここでは述べたが、これ以外にもフッ素を含む化合物には面白い特性があるものがいろいろある。従来の化学製品の分野はもちろん、人工血液や制がん剤など、医療の分野でも注目されている。

涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。

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「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。

 
この記事は書籍「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」(KADOKAWA)からの抜粋です。

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