知ってる? 石けんと合成洗剤が汚れを落とせる仕組み/身のまわりのモノの技術(25)【連載】

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普段、何気なく使っている石けんだが、どうして石けんは汚れを落とせるのだろう。その秘密は分子の不思議な構造にある。

石けんの分子は、マッチ棒のような形をしている。その分子の片方は水に反発し、もう片方は水になじむ性質がある。水に反発する側を疎水基、水となじむ側を親水基と呼ぶが、この二つの基が共存する分子構造が重要なのである。

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石けんの分子は水中でミセルと呼ばれる分子の集団になっている。疎水基が水と反発するため、親水基を外側にして集まるのだ。「頭隠して尻隠さず」という言葉があるが、石けんの分子はまさにその状態になっている。もっとも、図で表現するときには疎水基を棒、親水基を丸で表現するので、「尻隠して頭隠さず」となるが......。

ここに油を入れてかき回すと、どうなるだろう。ミセルを形作っていた石けん分子はバラバラになるが、ふたたび疎水基の隠れ場所を探そうとする。この新たな隠れ場所が、水に溶けない油である。油も疎水性なのだ。

石けん分子の疎水基は、親しい関係にある油の表面を取り囲む。油は石けん分子にびっしりと覆われるが、外側は親水基。つまり、水に溶けるのだ。油が水に溶け出す秘密はここにある(これを乳化という)。水ですすげば、油が洗い落とせることになる。

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以上が石けんで油汚れが落ちるしくみである。親水基と疎水基が両端に並んでいる分子構造が本質的な意味を持つ。この構造を持つことで、石けんは油汚れを落とせるのである。石けん分子のように、親水基と疎水基をあわせ持つ分子からできた物質を、界面活性剤という。

石けんは植物油脂から作られるが、分子構造が判明している現在、これを石油から化学的に合成することができる。それが合成洗剤だ。また、洗剤以外にも、界面活性剤は静電防止剤や柔軟剤など、生活のさまざまなところで利用されている。

涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。

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「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。

 
この記事は書籍「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」(KADOKAWA)からの抜粋です。

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