買ったばかりの水着を海やプールで披露する。これは若い女性にとって晴舞台であろう。しかし、水着が地味だったり厚くゴワゴワしたりしていては興ざめだ。そこで、明るくて薄い、体にフィットした生地が水着の素材として望まれる。だが、そうした生地には透けやすいという欠点があった。水を含むとさらに透過性が増してしまう。この「明るく薄く、かつ透けにくい」という相矛盾する性質を兼ね備えた生地の開発が望まれていた。
1994年、東レが開発した透けない水着素材「ボディシェル」が登場。水に濡れても透けないということで大ヒットした。この繊維は、内部に八角形の星型の芯を持った複層構造で、芯には反射材として白色顔料の酸化チタンを含ませている。八角形の星型を芯にすることで、光を透過しにくくできる。酸化チタンは、化粧品にもよく使われているように、紫外線防止効果がある顔料だ。そのため、日焼け防止という美白効果も備えているのだ。
このような複層構造の繊維が応用されるのは水着だけではない。普段の衣服にも応用されている。例えば、白い衣類には「透ける」という欠点があった。そのため、女性には下着のラインが見えて恥ずかしいというイメージが持たれていたのだ。しかし、複層構造の繊維を利用することで、薄くても透けない純白の衣服をデザインできるようになった。白の似合う男女には、たいへんありがたい技術である。
また、この技術はカーテン生地にも利用されている。薄く透明感があっても室内が見えないからだ。
透けるといえば、プールにおける盗撮が問題になることがある。水着姿の人を赤外線撮影して透視するという迷惑行為である。ここでも、複層構造の繊維が威力を発揮している。
例えば旭化成の開発した繊維は、セラミックを含んだ芯をポリエステルとコットンで包んだ三重構造をしている。この工夫によって赤外線で透視される不安から解放されるのである。
涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。
「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。