井上弘美先生と句から学ぶ俳句「"思い"を詠む」

井上弘美先生と句から学ぶ俳句「"思い"を詠む」 pixta_25044826_S.jpg井上弘美先生に学ぶ、旬の句。今回は「"思い"を詠む」というテーマでご紹介します。



送り火のすゞろに消えてゆきにけり  高橋淡路女

今年の立秋は8月7日。新暦で盆を迎える地域もありますが、「墓参」「燈籠」など、盆に関わる季語はすべて秋です。この句は「送り火」が消える
というだけの内容で平明な作品ですが、「すゞろに」という言葉が効果的。この場合は、ごく自然に、しかしあっけなく消えてしまう様子を表現しています。送り火が消えると今年の盆も終わり。名残を惜しむ気持ちを漂わせているのです。
作者は1890(明治23)年、兵庫県生まれ。身辺を確かな目で詠み、女性俳句の草創期に活躍しました。1955(昭和30)年に逝去。



新涼の母国に時計合せけり  有馬朗人

「涼し」は夏の季語ですが、「新涼」は秋の季語。秋になって、改めて感じる涼しさを言う清々しい季語です。
この句は海外詠ですが、旅が終わって帰国の途につく時、きっと空港で詠まれたのでしょう。時差は「母国」との距離を思わせますが、心はすでに日本。
「時計」を合わせて、「新涼」の季節を迎えた「母国」に思いを馳せている、心の弾みが伝わってきます。
作者は1930(昭和5)年、大阪府生まれ。「天為」を創刊・主宰。東大総長、文部大臣などを歴任した科学者で、現代を代表する作家です。

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<教えてくれた人>
井上弘美(いのうえ・ひろみ)先生

1953 年、京都市生まれ。「汀」主宰。「泉」同人。俳人協会評議員。「朝日新聞」京都版俳壇選者。

 
この記事は『毎日が発見』2017年8月号に掲載の情報です。

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