帰ってきたポップスター・小沢健二の「不在」を超える存在感

メイン.jpg40代以上の人にとって、小沢健二は特別な存在だったのではないでしょうか。好むと好まざるとにかかわらず、「今夜はブギー・バック」や「カローラⅡにのって」を知らない人はいませんでしたし、もし知らなかったとしても、街中で流れるアルバム『LIFE』の楽曲を耳にしていたはず。人によっては岡崎京子、吉本ばなな、コーネリアスらを通して、その存在を吸収していたかもしれません。そんな押しも押されもせぬ人気者だった彼は、ある日突然、その環境を捨てて公の場からいなくなりました。19年も。

 

充実した空白、そして生まれた音楽

音楽ジャーナリストの宇野維正氏による著書『小沢健二の帰還』は、緻密な取材とありとあらゆる資料をもとにした、小沢健二の軌跡を探る一冊。19年もの不在の理由について、本人の言葉を次のように紹介しています。

人それぞれ、生きるペースってあるじゃないですか(中略)みんな生きる上で問題に直面した時に、それを解こうとするのだけど、人によって問題を解くのにかかる時間は違うし、問題そのものも違う(後略)

これだけ読むと、生きていれば誰でもする苦労話に聞こえかねません。しかし、空白期間に断続的に発表された物語『うさぎ!』などの音楽ではない表現作品からは、もう少し具体的な理由が読み取れると著者は指摘します。

それは彼が抱いていた、「すでに主流であるものを焼き直す」表現への大きな違和感です。

ポップスターとして、彼は大衆に受け入れられる、聞きやすい楽曲の提供を常に求められます。そのためには「すでに主流であるもの」と似たものを量産すればいい。しかし本心は、聴衆にすぐに受け入れられなくても自分にとってのリアリティを追求したい――。

そんな葛藤が、不在の一つの理由だったと推測しています。何よりも経済が優先されている状況を予感し、それを全力で阻止したということかもしれません。

そして2017年、19年ぶりのシングル「流動体について」を発表。これが大ヒットし、同年夏のフジロックフェスティバルでは会場に収容しきれないほどの観客を熱狂させて小沢健二。彼は長い時を経て、葛藤を抱えた格好悪い自分を受け止める強さを手に入れ、再びにぎやかな場所に戻ってきました。

不在があったからこその揺るぎない存在感。同じ今を生きるものとして、その活動から目が離せません。

  

文/青柳寧子

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『小沢健二の帰還』

(宇野維正/岩波書店)

2017年、日本の音楽シーンに復帰して注目されている小沢健二。19年前に突如表舞台から姿を消し、ニューヨークへ移住したのはなぜか。入手しうるすべての資料を読み解き、稀代のスターの軌跡を探る一冊です。

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