壮大な謎解きの果てに辿り着く、楊貴妃の知られざる物語とはー?『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』【映画】

7.jpg弘法大師、空海ーー。
誰もが知る人物を題材に、夢枕獏がイマジネーションを広げ、どこか『陰陽師』を思わせる壮大な物語に仕上げた『沙門空海唐の国にて鬼と宴す』。17年かけて書き上げたというこの長編小説が『さらば、わが愛/覇王別姫』(93)で世界を沸かせた中国のチェン・カイコー監督の手によって日中合作で映画化され、今週末2月24日から日本でも公開されます。

舞台は今から1200年前の唐の都・長安。ローマ帝国と並び、栄華を極めた当時の長安は、多くの外国人が暮らし、様々な文化が混ざり合い、傑出した才能が集まっていた世界の一大都市だったといいます。小説でも街の様子が興味深いのですが、映画の楽しみのひとつは、まさにそれが映像として楽しめるところ。

チェン・カイコー監督が「本物の木を植えて、本物の街を作りたい」(映画プレス資料より)と言って造られたという当時の長安の街並みは、デザインに2年、建築作業に4年が掛けられ、広さにして東京ドーム8個分。あまりに広いので、キャストもセットの中をバスで移動したというから、もはや本物の街のよう。それだけに人々が行き交う、活気溢れる街の様子や、当時の暮らしぶりがリアルに再現され、中国を舞台にしたエンターテイメント映画ならではの壮麗な世界が広がります。

 

1.jpg日中の演技派キャストが結集。ちなみに右奥は楊貴妃役、台湾出身のチャン・ロンロン。

そんな当時の長安に、日本から遣唐使船で渡ったのが若き日の空海。この物語に描かれているのは、日本に帰って密教を広める前。密教を学ぶために唐に来たものの、まだその思いを遂げずにいる、いわば青年時代の空海が描かれているところも新鮮です。

そして、空海が出会うのが詩人の白楽天。後に「長恨歌(ちょうごんか)」という後世に残る詩を書く彼もまた、これからこの詩を書こうとしている時期。社会的にはまだ何者でもない二人が出会い、まるでシャーロック・ホームズとワトソンのように、華やかな都を襲う怪事件を解決していく。この映画は、そんな謎解きエンターテイメントなのです。

 

2.jpg空海役の染谷将太と白楽天役のホアン・シュアン

事の発端は、唐の役人・陳雲樵(ちん・うんしょう)の妻・春琴が、邸宅の庭で怪しげな黒猫に出会ったこと。黒猫は、人間の言葉でこう言います。「夾竹桃(きょうちくとう)の根元を掘ってみろ。大金が埋まっているぞ」。言われたとおり掘ってみると、そこには山のような金貨が埋められていました。

この日を境に、たびたび現われる黒猫。やがて彼らの周りで次々に奇怪な事件が起こり始めます。その怪を収めてくれと呼ばれたのが「倭の国」、つまり日本からやってきた留学生の空海。

相当なことが起きているのに、物語中の空海は陰陽師的なことにも精通していて、慌てることなく飄々と、どこかユーモラスな風情を漂わせながら、ひとつひとつの事象を収めていく。その様子が小気味よく、年齢より大人びた精神性を感じさせる俳優・染谷将太に空海役がよく似合います。日本公開版は日本語ですが、中国版で披露している流暢な中国語にも驚かされます。

 

4.jpg阿部仲麻呂役の阿部寛

事件の謎を追う空海は、同じく唐に渡り、そこで生涯を終えた阿倍仲麻呂の遺した手紙に行き着きます。阿部仲麻呂を阿部寛が、その側室・白玲(はくれい)を松坂慶子が演じているのですが、この手紙が大きなヒントになり、やがて驚くべき事件の真相へと辿り着く。そこには時の皇帝・玄宗と、その寵愛を受けた楊貴妃の知られざる物語が広がっていました。

白楽天が書こうとしていた「長恨歌」は、まさに玄宗皇帝と楊貴妃についての詩。こうした物語のパーツがクライマックスに進むに連れ、楊貴妃の伝説と絶妙に絡み合っていきます。物語はもちろんフィクションですが、そこがまたこの作品の魅力。もしかしたらこんなこともあったかもしれないーーそう思わせる説得力があり、最後まで引き込まれます。

さて、黒猫の怪が、どんな経緯で楊貴妃の物語にまで辿り着くのかーー。映画は小気味よいテンポで軽やかに楽しめますが、映画を観た後、小説を読むとさらに面白い。奥深く広がる空海の世界に、ますます興味惹かれます。

 

文/多賀谷浩子

『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』

監督:チェン・カイコー 出演:染谷将太、ホアン・シュアン、松坂慶子、阿部寛ほか
配給:東宝 KADOKAWA  2017年 中国・日本 2時間12分
©2017 New Classics Media,Kadokawa Corporation,Emperor Motion Pictures,Shengkai Film

・公式サイト:http://ku-kai-movie.jp/

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