2017年11月、国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターは、抗菌薬・抗生物質の正しい知識や使い方について聞いたネット調査の結果を発表。抗菌薬・抗生物質とは何かを知っている人はわずか37%、約2人に1人がインフルエンザや風邪に有効と答えるなど、誤解の多い実態が浮上しました。そこで、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院副院長、AM臨床リファレンスセンター長の大曲貴夫先生に、抗生物質の役割についてお話をお伺いしました。
正しい知識で服用して薬剤耐性の拡大を防止
風邪に抗生物質(抗菌薬)(※) は効かないと知っていましたか?
風邪の原因はウイルスなので、細菌を殺す抗生物質は効果がありません。そればかりでなく、不適切に抗生物質を使用することで、薬が効かない薬剤耐性菌の増加が心配されています。
※抗生物質(抗菌薬):厳密に分けると、細菌の増殖を抑制したり、殺す薬が抗菌薬。そのうち細菌や真菌といった「生き物」から作られるものを、特に抗生物質と呼びます。
「抗生物質は細菌に対する薬で、肺炎やぼうこう炎などに処方されることがあります。この薬の成分に抵抗するために、遺伝子が変化したものが薬剤耐性菌です」とは、大曲貴夫先生。
【薬剤耐性(AMR)とは?】
特定の種類の抗生物質(抗菌薬)が効きにくくなる、または効かなくなること。耐性を得た細菌を「薬剤耐性菌」といい、この菌が増えると抗生物質(抗菌薬)が効かなくなります。そのため、従来は適切な治療により回復できた感染症の治療が困難となって重症化、さらには死に至る可能性も高まります。
抗生物質を服用すると、病原菌はもちろん体内にいる大半の細菌は死んでしまいます。しかし、薬が効かない細菌が生き残ったり、生き残れるよう変化することがあります。これを薬剤耐性菌と呼び、感染が広がると、元来治療に使われていたはずの薬が効かず、治療が困難になります。不必要に抗生物質を使いすぎると、このサイクルはどんどん進み、感染症の流行や重症化のリスクが高まります。
では、薬剤耐性菌の増加を抑える方法はあるのでしょうか?
「抗生物質は適切な服用が大切です。症状が軽くなったからと飲むのをやめる、余った薬を別の機会に飲むなどは、思わぬ副作用を招く可能性が。また、風邪で受診した場合に抗生物質を処方されたら、何のために飲むのかを医師に尋ねてください」
【薬剤耐性を防ぐためには?】
●抗生物質の正しい知識を得る
●必要なときに、医師の指示に従って服用する
●抗生物質をとっておいて、後から飲まない
●他人に抗生物質をあげたり、もらったりしない
●分からないことは医師または薬剤師に相談する
●感染症の予防に努める
薬の知識を持つことは、治療に役立つだけでなく、副作用の回避にもつながります。必要なときに、適切な量と期間を守って服用しましょう。
取材・文/笑(寳田真由美)
大曲貴夫(おおまがり・のりお)先生
国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院副院長、AMR臨床リファレンスセンター長。