国立がん研究センターのデータによると、女性のがんの罹患数のトップは乳がん、死亡数のトップは大腸がんですが、近年、シニア世代の男女に、性ホルモンに関連したがんが増えているのをご存じですか? がんは体質に加え、加齢や環境因子が積み重なって遺伝子異常が起こり、発生することが分かっています。
大学病院の産科婦人科医療の現場で、幅広い年齢層の女性を診察している竹田省先生に、シニア世代が知っておきたい子宮体がん、卵巣がんの基礎知識や早期発見のためのポイントをお聞きしました。
卵巣がんを早期発見するのは難しいですが、子宮体がんは定期検診で早期発見が可能です
【子宮体がん】
日本は欧米に比べて検診率が低めなのが問題
がんは遺伝子に異常が起きて細胞が異常増殖したり、異常が起きた遺伝子を修復できなくなるなど、発生の仕組みがいくつかあります。近年、男女ともに性ホルモンが発育を促進するタイプのがんが増加傾向にあり、最新の統計では、女性は乳がんの罹患数が第1位、子宮がんは第5位、また、卵巣がんは第12位という結果に。男性では前立腺がんが第2位です。
「ここでは私の専門である婦人科腫瘍についてお話ししましょう。昔は女性のがんと言えば子宮頸がんが多かったですが、1980年代から子宮がん検診が普及して早期発見、早期治療が可能となり、減少しました。しかし最近は、年齢を問わず子宮体がんと卵巣がんの罹患数が増えており、特に50〜60代がピークです。しかも近年、子宮頸がんワクチン接種を控えるようになり、子宮頸がんも20代を中心に増えています」(竹田先生)。子宮体がんは子宮内膜にできるがんで、子宮頸がんとは性質が異なるため、検査は区別して行われます。自治体が実施する子宮がん検診の主な対象は、20歳以上の女性の子宮頸がんですが、不正出血のある人や、閉経前後の女性には子宮体がん検診も同時に行われています。
「現在、日本の子宮がん全体の検診率は25%程度です。アメリカでは18歳以上の女性の8割が子宮がん検診を受けているので、日本はまだまだ検診率が低いと言えます。特に女性ホルモンのバランスが変化する閉経前後は子宮体がんが急増する年代です。その上、子宮頸がんの心配がなくなるわけではないので、閉経前後になったら、子宮頸がんと子宮体がんの両方の検診を1〜2年に1度は受けてほしいです」
不正出血は子宮体がんの早期発見のサイン
子宮頸がん検診では、子宮の入り口の粘膜細胞を採取する細胞診が行われ、誰もが簡単に受けることができます。しかし、子宮体がん検診は子宮口から専用の器具を挿入して子宮内膜の細胞を採取するため、出産経験がなくて子宮口がかたく閉じている人の場合は、細胞が採取できませんので、経腟超音波検査をして、子宮内膜の厚みを画像上で計測します。閉経後の人の子宮内膜は通常3㎜以下とされ、もしも5㎜以上ある場合は子宮内膜の増殖が疑われ、より詳しい検査が必要です。
「子宮頸がん、子宮体がんは不正出血によって見つかることが多いので、万一、閉経後に突然出血したら、病気のサインかもしれません。また、更年期に不定期な出血があると『また生理が来たのかな?』と考えてしまいがちですが、自己判断は禁物。発見が遅れれば症状が進行する恐れがあり、早期発見、早期治療が何より大事です。出血が見られたら早めに受診しましょう」
【卵巣がん】
子宮体がんと同じく50〜60代がピーク
卵巣がんはあらゆる年齢で発症しますが、子宮体がんと同じく50〜60代がピークです。卵巣がん検診というものはないため、子宮がん検診を受ける際、経腟超音波検査などで卵巣もチェックしてもらいましょう。
「卵巣がんは突然発症して数カ月で進行するケースが少なくないため、検診で早期発見するのは難しいと考えられています。といっても、『最近、下腹部が太ったと思っていたら卵巣がんだった』というケースもあるので、急にスカートがきつくなったら、婦人科を受診したほうが安心です」 卵巣がんにはたくさんの種類がありますが、子宮内膜症の一種で、卵巣の一部に月経血がたまる"チョコレート"がある人は、嚢胞部分が卵巣がんに変化するケースもあるため、半年に1回は婦人科を受診して、経過観察する必要があります。「以前は、閉経後になるとチョコレート嚢胞は消失すると考えられていました。しかし、50歳以降の女性の子宮や卵巣を手術した際に、チョコレート嚢胞が残っているケースが少なくないと分かってきたのです」
また、最近の研究では、特定の遺伝子異常がある人が遺伝性の卵巣がんにかかりやすいことも解明されています。割合的には1割ぐらいですが、近親者に若年で卵巣がんを発症している人が複数いる場合は、遺伝性のリスクが高いと考えられます。 「女優のアンジェリーナ・ジョリーが『将来的ながんを防ぐために』と、乳房の切除手術を受けたように、卵巣や子宮を予防的に切除する手術を希望する人もいます。遺伝性のがんが心配な人は、遺伝(子)診療科がある病院で検査することも可能です」
取材・文/大石久恵
竹田 省(たけだ・さとる)先生
順天堂大学医学部産婦人科講座 主任教授。石川県生まれ。1976年、順天堂大学医学部卒業。順天堂大学医学部麻酔学教室、東京大学医学部産科婦人科学教室を経て、'85年、埼玉医科大学総合医療センター講師に。'92年、ロンドン大学(現インペリアル大学)ハマースミス病院に留学。2001年、埼玉医科大学総合医療センター産婦人科教授を経て、2007年より現職。専門領域は周産期医学、婦人科腫瘍学。『40才からの女性の医学 卵巣がん、子宮体がん--正しい知識でよりよい治療』など、著書多数。