誰しもが生きていれば持つ、モヤモヤとした思いに対して、私たちはどう向き合えば良いのでしょうか? 東京・谷中の禅寺「全生庵(ぜんしょうあん)」住職の平井正修さんによる誌上説法に一つの答えがあるようです。
「いま、いま、いま」で一日を過ごそう
「三毒」、そして「貪 (とん)」「瞋(じん)」「癡(ち)」。皆さんには聞きなれない言葉だと思います。しかし、その内容は「 貪 (むさぼり)」「怒り」「愚癡(ぐち)」です。誰しもが生きていれば持つ思いです。この思い自体には良いも悪いもないのですが、この思いにとらわれ、縛られてしまうと、心の自由が利かなくなります。これが仏教でいうところの"苦"という状態です。この"苦"をどうするか、この"苦"とどう向き合うか、これが仏教の最大のテーマです。
仏教の宗祖、お釈迦様が説かれた最後の教えである『仏遺教経(ぶつゆいきょうぎょう)』にこんな一説があります。
「汝らよ、この世は苦に満ちている。されどなお、この世はまことに美しく、人生は甘味なり。されば諸人、まことの法を灯火(ともしび)とし拠り所とし、己を灯火としよりどころとして、怠らずいまをつとめよ。一日一事を大切に生きよ」
この言葉こそが、"苦"の解決を求めて出家し、終生"苦"と向き合って生きたお釈迦様自身の体験からの言葉です。
あるとき、ふっと心にわき上がる三毒。これを捨てられるのなら、捨ててしまう。しかし、捨てられなければ、「受け入れ」、あるいは「転じて」いく。捨てられないものを無理に捨てようとすると、大きなとらわれになってしまいます。
そんな柔軟な心を持てるがことが理想ですが、そう簡単なことでもありません。
みなさんがいますぐ実践できることは、「いまに徹する」ことです。三毒には実体がありません。心がモヤモヤするだけで、何か形があるわけではないのです。しかし、目の前には必ず形のある"いまやらなければならないこと"があるはずです。仕事、勉強、洗濯、料理......。まずはそこに徹していくことから始めましょう。
「すきがある」という言葉がありますね。「すきがある」は、隙間がある、ということです。どこに隙間があるのかといえば、心と体の間にあり、そこに三毒が入り込むのです。ですから、「今に徹する」ことで、その隙間をつくらないようにすることが大切です。「いま、いま、いま」で一日を過ごしてみましょう。そうすればきっと、とらわれない自分がそこにいるはずです。
平井 正修(ひらい・しょうしゅう)さん
臨済宗国泰寺派全生庵住職。日本大学客員 教授。2003 年より、中曽根康弘元首相や 安倍晋三首相などが参禅する全生庵の第七 世住職に就任。全生庵にて坐禅会、写経会 を開催。最新の著書に『三つの毒を捨てなさい』(KADOKAWA刊)。