「がん」が気づかせてくれた...病気になる前の僕の「歪み」/続・僕は、死なない。

「病気の名前は、肺がんです」。医師からの突然の告知。しかも一番深刻なステージ4で、抗がん剤治療をしても1年生存率は約30%だった...。2016年9月、50歳でがんの告知を受けた刀根 健さん。残酷な現実を突きつけられても「絶対に生き残る」と決意し、あらゆる治療法を試して必死で生きようとする姿に...感動と賛否が巻き起こった話題の著書『僕は、死なない。』(SBクリエイティブ)より抜粋。過去の掲載で大きな反響があった連載の続編を、今回特別に再掲載します。

※本記事は刀根 健著の書籍『僕は、死なない。』から一部抜粋・編集しました。
※この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

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順調な日々

5月になってから、僕の仕事は順調に入ってきていた。

以前会った後輩が紹介してくれている仕事も、どんどん入ってきた。

その仕事は連泊での宿泊が多く、妻が「あまり無理しないでね」と心配するほどのボリュームだった。

つくば、鎌倉、千葉、青森、仙台...。

僕は研修に行くたびに、その場所の名産品をお土産で買って帰った。

それが楽しみの一つになっていた。

やっぱり、仙台の『萩の月』や『かもめのたまご』はおいしいのだ。

前の会社からの依頼も少ないながら、いくつかあった。

やはり、あの心配は杞憂だった。

僕は森の中にひとりで放り出された農民ではなかった。

僕は森の中を自由に遊びながら歩いている狩猟採取民だった。

集合意識が切り替わったせいか、あるいは"流れ"に乗っているからなのか、わからなかったけれど、僕が仕事に困ることはなかった。

研修の中で話す内容も、がんになる前と後では変化していた。

僕の研修は、主にコミュニケーションやリーダーシップ、メンタルヘルスなどの集合研修だけれど、そのベースとなるものは心理学、TA(Transactional analysis/交流分析)という理論だ。

これはエリック・バーンという精神科医が開発したもので、"自我/エゴ"がどういうふうに作られるか、そしてその"ゆがみ"やパターンがコミュニケーションや人生においてどんな影響をあたえ、どんな人生を作り出すのかを、理論的に分かりやすく分析して解説したものだ。

僕はがんになる前からこのTV|A(Transactional analysis/交流分析)の研修をしていたのだけれど、がんにならないと分からなかったことが、たくさんあったことに気づかされた。

まあつまり、よく分かっていなかったってことだ。

人の心はタマネギみたいに多重構造じゃないかと思う。

僕の"怒り"の下に"悲しみ"があり、その下に"愛"があったように、人の心は幾層もの層になっているんじゃないだろうか。

僕はちょっとばかり心理学を勉強したことで、それをあたかも全て知っているような気になり、"先生"とか呼ばれていい気分になっていた。

まったく、お笑いぐさだ。

"知ってるつもり"は、一番"分かっていない"んじゃないだろうか。

少なくとも、僕はそうだった。

そういう自分が今は恥ずかしく感じる。

僕は自分の持っている心理学の知識で誰かを助けようとか、誰かを援助しようとか、そんなふうに思っていた。

しかし、今は分かる。

そんなのは『優越感』という"自我/エゴ"の最も陥りやすいパターンだったんだ。

僕は今までも愚かだったし、今も愚かだ。

それが"僕"。

"自我/エゴ"は愚かは嫌だから、鎧を着たがる。

僕の場合、それが『心理学』や『ボクシング』だったというわけだ。

そういうもので『優越感』や『やっている感』を感じることで、空っぽな自分、ダメな自分を感じないように一生懸命頑張ってきたのががんになる前の僕で、それに気づかせてくれたのが『がん』ということだ。

『がん』ちゃんありがとう。

おかげで少しはましな人間になったよ。

愚かな自分だから、全てを受け入れることが出来る。

知らない自分だから、判断したり分析したりしないで、新鮮な気持ちで聞くことが出来る。

"愚か"最高、"愚か"素晴らしい。

自分が"愚か"であり"アホウ"だということを知ること。

それは最強の"アホウ"。

僕は歪んでいた。

それに気づいていなかった。

だから病気になった。

簡単なことだ。

それを気づいた今だからこそ、話せることがある。

そういうことを研修の中では話すようになった。

特にストレスマネジメントの研修では、僕のがんの体験がそのまま研修の内容になった。

なぜ、がんになるか、なぜ、ストレスを感じるのか、ストレスを感じると身体はどう変化するのか、そしてその変化がなぜがんや病気を作り出すのか...。

僕ががんと向き合ったことで得た経験や知識が、そのまま研修の内容になった。

そしてそれを聞いている人にとっても、目の前で体験した人がそれを話している、ということで、とてもインパクトのあるものになったようだった。

こういうところにも、僕のがん体験が役に立って嬉しい。

僕の話を聞いていただいた人が、一人でも将来的に病気やがんになることを避けられれば、僕ががんになった意味もあったというものだ。

 

刀根 健(とね・たけし)

1966年、千葉県出身。東京電機大学理工学部卒業後、大手商社を経て、教育系企業に。2016年9月1日に肺がん(ステージ4)が発覚。翌年6月に新たに脳転移が見つかるなど絶望的な状況の中で、ある神秘的な体験し、1カ月の入院を経て奇跡的に回復。ほかの著書に、人生に迷うすべての現代人におくる人生寓話『さとりをひらいた犬 ほんとうの自分に出会う物語』がある。オンラインサロン「みんな、死なない。」および刀根健公式ブログ「Being Sea」を展開中。

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