レストランのピアニストだった私。退職しようとした時にかけられた忘れられない言葉

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ペンネーム:うずら
性別:女
年齢:53
プロフィール:20代の頃にレストランでピアノ演奏をしていました。バブル期真っ只中だったので、今とは違い演奏できるお店はたくさんありました。今回は、そんな時代の私の大切な思い出をご紹介します。

※ 毎日が発見ネットの体験記は、すべて個人の体験に基づいているものです。

◇◇◇

どうしたらピアニストになれるのかなんて全く分かりませんでしたが、ずっとその夢を追い続け、19歳の時に大きなチャンスに恵まれました。たまたま見ていた求人誌で「ピアニスト募集」と書いてあったレストランを見つけたのです。
ピアニストになるのはまだずっと先の話だと思っていたために、当時の私のレパートリーはたったの11曲。それでもチャンスを逃してはいけないと、オーディションを受けに行きました。音大生ではありませんでしたが、ジャズスクールにずっと通っていたので、コード譜を見れば何とかメロディーをアレンジしながら弾ける程度にはなっていました。

オーディションを受けに来た人たちは、私以外全員音大生か音大卒。20人以上の人たちが集まり、みんなガチガチに緊張していました。コピー機もなかった時代なので、みんな重たい楽譜を何冊も持ってきたり、全曲暗譜していたり、自分が場違いなところに来てしまった気がしました。

ただ、当時の音大ではポピュラー音楽やジャズを教えていなかったので、その中でコード譜をアレンジして弾けるのは私だけだったのです。何だか浮いているような感じがしましたが、自分にできることをするだけだ、と演奏しました。

選ばれるのはたった一人。なんと、私が選ばれたのでした。それも、審査員が何人かいたのですが、社長が「あの子に決めて」と言った一言で決まったそうです。

それからというもの、毎日必死で練習しました。その日リクエストに応えられなければ翌日にはその曲を弾けるように練習しました。そのようにして一年間努力しましたが、やはり下手なことに変わりはありませんでした。

初めの頃は「これから上手くなればいい」と思っていたのですが、それが1年後にはすっかり自信を失い、「私には素質がない」と思うようになっていました。「どんなに頑張っても、私のピアノで感動する人などいない」とも思いました。そして、その話を社長にし、1カ月後にやめるという話までしました。1年間というのは短いようですが、19歳から20歳になる節目でもあり、若さゆえの焦りもありました。

社長も周囲の人たちも「まだ若い」「これからでも頑張れば」など、引き留めてはくれました。ですが、私にとってはすでに悩みに悩んで決めたことだったのです。

仕事の最終日、そのレストランは1つのパーティーで貸し切りになりました。お客様は30人以上だったと思います。アマチュアとプロのビッグバンドのメンバーが、何かの打ち上げでいらっしゃいました。そのうちの一人は、いつも通って下さっていたアマチュアの方。その方は、社長から私がやめると聞き、最後に話がしたいと私を席に呼びました。

私を引き留めようとする話がずっと続きました。ですが、何を言われても私の心は動きませんでした。その方は話の終わりに「最後に一言だけ言わせて欲しい。僕はうずらさんのピアノが好きだから、やめて欲しくない」と言ってくれたのです。
そんなことを言われたのは初めてでした。私の下手な演奏を「好き」だと言ってくれた人は、それまで一人もいなかったのです。そうして、その後プロのミュージシャンの方が席に来て、「落ち込むことと反省することは違うんだよ。できないって思って辛いなら、どうしたらできるようになるか考えて、悩んで悩んで必ず答えを出すんだ。何をしたらいいか分かれば、ただひたすらできるようになるまで練習すればいいだけなんだから、そんなに難しく考えなくていいんだよ」とおっしゃってくれました。

私は、たった一人でも私の演奏が好きだと言ってくれる人のために、仕事を続けていこうと決めました。その日仕事が終わってから社長に「辞めるのをやめてもいいですか?」と聞くと、社長は私の気持ちが変わるのを待ってくれていたそうで、「他のピアニストは探していない」と言い、私を受け入れて下さいました。

それから私は、そのレストランが経営不振で閉店するまで演奏を続けることができました。

ずいぶん時間が経ちましたが、今振り返っても、あの時のことが「できないからといって諦めない」という私の原点となっていると思うのです。

健康法や医療制度、介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず事前に公的機関による最新の情報をご確認ください。
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