コロナ禍の今こそ読みたい。幸せに生きるヒントをくれる名著/鎌田實の人生図書館(3)

「読書は人生の羅針盤の役割を果たしてくれた」
実の親に捨てられ、養父に育てられた鎌田實先生。貧乏な家庭の事情をわかってくれていた学校の先生が「図書館の本を何冊でも借りていっていい」と言ってくれたことが、人生を変えていったといいます。そんな鎌田先生の人生を支えた名著から、コロナ禍のなかで読みたい本、子どもの心を動かす絵本まで、渾身の読書案内を連載形式でお届けします。

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【前回】僕の人生を変えた1冊。経営者としての指針を教えてくれたのは...?/鎌田實の人生図書館(2)

【最初から読む】僕の人生を支えてくれた名著と、「おもしろい生き方」を教えてくれた名著/鎌田實の人生図書館(1)

コロナ禍の中で読みたい本、あれこれ

著名な「幸福論」を比較検討してみると......

「コロナ疲れ」という言葉がありますが、負けてはいけません。

精神的にも萎縮しがちですが、好きな小説や映画、音楽で魂を揺さぶってください。

コロナと闘っていくうえで大事なのは、命と経済ばかりでなく、命と経済と心の3つのバランスです。

その「心」を支えるためには、文学や絵本や映画や音楽がとても大切だと思っています。

そこでウイズコロナの間に、幸福論のいくつかを読んで、小うるさいテレビの"教育的指導"はほっぽり出して、もっと大きな視点で、「幸福に生きるとは何か?」を考えるために、3つの幸福論を示しましょう。

この3つは、僕自身がときどき読み返しながら、自分の道しるべにしてきました。

僕は哲学者アランの『幸福論』が好きで、何度も繰り返し読んできました。

アランがフランスの高校の哲学教師だったこともあって、読みやすいのが魅力の一つです。

いろいろな幸福論の入門書にもなるでしょう。

代表的な言葉があります。

幸福だから笑うわけではない。むしろ、笑うから幸福なのだ。

幸福についてなどというと難しく考えがちですが、このアランの言葉は、ふっと力みを取り除いてくれます。

笑うことは、幼い子どもでも自然にできること。幸福になるのはとても簡単なことだと思わせてくれます。

たくさんの哲学者が「幸福とは何か?」「よき人生とは何か?」を探求してきました。

苦しんでいても悲しんでいても、後悔するような人生を生きていても、そこから新しい思想が生まれてくると考えられることが多かったように思います。

しかしアランは「〝幸せそう〞であることはかっこ悪いことではなく、幸福自身が徳である」と表現しています。

オランダの哲学者スピノザも著書『エチカ』の中で、「幸福は、徳の報酬ではなく、それ自身である」と述べています。

同じです。

アランは、「愛する人のために最善を成すことは、自分が幸福になることである」と、幸福であることを胸を張って言っているのです。

ここがアランの、アランらしいところです。

坂口安吾や太宰治が絶対に言わない言葉です。

坂口や太宰のように、物事を斜めから見ていくのも大切ですが、ときどき、アランのような正道を自分の中に持っておくことも大事だと思って、僕は生きてきました。

NHKテレビに「100分で名著」という人気の番組があり、僕はアランの『幸福論』のときにコメンテイターとして参加しました。

僕はその中で「幸福は徳である」というアランの表現を引用し、「幸福は目標ではなく意志」と述べました。

「幸せだから笑うのではなく、笑うから幸せになる」。

だからこそ、笑うことは、意志の力でできること。

同じように、幸福になることを目標にするのではなく、自分の意志こそが問われているのだと思って生きてきました。

だから、どんな状況になっても、幸福になれるはず。

こうやってアランを上手に利用しながら、生き延びてきました。

幸せかどうかは自分が決める

アルトゥール・ショーペンハウアーの『幸福について─人生論』も僕の愛読書です。

「『人は幸福になるために生きている』という考えは、人間生来の迷妄である」と断言しているところが痛快です。

皮肉屋のショーペンハウアーは、幸福に関係するものは、「健康」「朗らかさ」「余暇を楽しむ力」「孤独を愛す」だという。

ナルホド、ナルホドと思いました。

自分に満足できる人が幸福になる。

「自画自賛」もあながち間違いでないと言っています。

これはいいなあと思いました。

ウイズコロナの時代に、うじうじと考え過ぎず、「自分の人生は結構イケてる」と考えるのが大事なのかもしれません。

もっとおもしろく生きようよ、という精神が感じられます。

数学者で哲学者、人道的理想主義者であるバートランド・ラッセルの『ラッセル幸福論』は、好奇心や外界との関係を築くことこそが、幸福獲得の条件だと問いています。

自分に熱意を向けることは、実は不幸な思考法なのです。

自分探しをし過ぎたり、内省をはかるより、外に興味を持ち、自分が少しでもおもしろいと思うことをする、ときには少しだけでも、人の役に立つことをする。

そのときに幸福感がやってくる。

他人の尺度に惑わされないことが大事

「幸福」とは何か?

何を人生の幸せとするかは、個人によって違います。

また同じ人でも、年齢や体験によって変わっていくでしょう。

でも自分で考えて到達したものなら、迷うことはありません。

それに向かって突き進めばいいのです。

しかし、「あの人に比べて自分は......」と他人を羨んだり、比較しても、決して幸福にはたどり着きません。

その思考をしている限り、たとえそれにたどり着いたとしても、決して満足しないでしょう。

「今度はこれ」という具合に、また別の人と比べて、今度はそれをゴールにするからです。

大切なのは自分です。

自分が「これで満足」と思えれば、それが幸福の基準です。

まして、コロナ禍の現在、世間体や同調圧力などの"見えない力"に屈してはいけません。

自分が「いい」と思った幸福をまっとうしてこその人生。

そのためには、古今東西の「幸福に関する名著」をひもといてみるのも役立つと思います。

【次回】大切なことを教えてくれる絵本3冊。子どもも大人も感動/鎌田實の人生図書館(4)

【まとめ読み】『鎌田實の人生図書館』記事リスト

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鎌田 實
1948年東京生まれ。医師・作家・諏訪中央病院名誉院長。東京医科歯科大学医学部卒業。 1988年に諏訪中央病院院長、2005年より名誉院長に就任。地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。 日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本・イラク・メディカルネット代表。06年、読売国際協力賞、 11年、日本放送協会放送文化賞を受賞。 著書多数。

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『鎌田實の人生図書館 あなたを変える本と映画と絵本たち400』

(鎌田實/マガジンハウス)

世界を広げてくれた400を超える本や絵本、映画を取り上げ、生きること・死ぬこと、人生の面白さや心の機微にいたるまで鎌田流に渾身の読書案内! 本は世界で起きていることへの関心を持ったり、物事を考えるうえでの武器にもなります。さらに心の健康づくりのヒントにも。

※この記事は『鎌田實の人生図書館 あなたを変える本と映画と絵本たち400』(鎌田實/マガジンハウス)からの抜粋です。

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