僕の人生を変えた1冊。経営者としての指針を教えてくれたのは...?/鎌田實の人生図書館(2)

「読書は人生の羅針盤の役割を果たしてくれた」
実の親に捨てられ、養父に育てられた鎌田實先生。貧乏な家庭の事情をわかってくれていた学校の先生が「図書館の本を何冊でも借りていっていい」と言ってくれたことが、人生を変えていったといいます。そんな鎌田先生の人生を支えた名著から、コロナ禍のなかで読みたい本、子どもの心を動かす絵本まで、渾身の読書案内を連載形式でお届けします。

【前回】僕の人生を支えてくれた名著と、「おもしろい生き方」を教えてくれた名著/鎌田實の人生図書館(1)

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経営者としての指針を示してくれたドラッカー

もう1冊、僕の人生を変えた本があります。

それが『非営利組織の経営』。

P・F・ドラッカーの名著です。

累積赤字4億円の諏訪中央病院に赴任して、やがて院長職になり、30億円超の流動資産を残し、若い人たちにバトンタッチして身を引くことができました。

ドラッカーは、病院も非営利組織(NPO)だと定義しています。

この本は目から鱗でした、いま「日本チェルノブイリ連帯基金」と「日本イラク・メディカルネット」の二つのNPOを運営しています。

両方合わせると毎年、2億5000万円ほどの資金を集め、支援を行なってきました。

「地域包括ケア研究所」をつくり、「まちだ丘の上病院」という病院の経営にも携わっています。

赤字で廃業を決めていた病院を、職員の希望もあって再生させました。

底流に流れているのは、ドラッカーのこの本の理論です。

「社会にとって存在する意味のある組織が持続していくためには、どうあればいいのか」を、いつも考えられるようになりました。

ツルゲーネフが僕の背中を押した

僕がチェルノブイリに関わることになったとき、正直に話すと、逡巡がありました。

諏訪中央病院の院長になったばかりでした。

病院の大改革中でした。

チェルノブイリに行ってくれるような変わり者の医者は、当時、見つけられなかったのです。

前述もしたように、まだソ連という国があった時代で、チェルノブイリ原発は、まだソ連邦の一角だったのです。

「そんなところを旅するのはとても怖いぞ」と、みんなから脅されました。

そんな迷いとは裏腹に、青春時代に読んだドストエフスキーやトルストイ、ツルゲーネフの"母なる大地"を、一度この目で見てみたいと思ったのも事実です。

青春時代にロシア文学を読み、ロシア民謡を歌い、悠久の大地に憧れを抱いていたのです。

ソ連という国が、とんでもなくひどい国だということも、徐々にわかってきていました。

でも、もしかしたら医療とか教育とかは、いいところがあるのではないだろうか。

それを自分の目で見てみたいとも思っていました。

でもなんと言っても、「ロシア的」なるものに、大いなる憧れを抱いていたのです。

そういった「青春の残り火」のごとき思いが、僕をチェルノブイリに向かわせたのです。

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学生時代の読書ノート

読書は「いま世界は」「そして自分は......」を考える武器になる

文学作品が、僕の頭の中で、次々に連鎖反応を起こしていきます。

東京生まれで東京育ちの僕が、東京の国立大学を卒業して長野の病院に赴任し、すぐに農村地域で健康普及運動に邁進したのは「ヴ・ナロード」(農民の中へ、人民の中へ、民衆の中へ)という言葉に啓発されたからでもあります。

ツルゲーネフが一時期、「ナロードニキ運動」に加わっています。

その運動を描いた『処女地』という作品もあります。

彼の最高傑作は『父と子』ですが、僕が大好きなのは、『はつ恋』。

自伝的な小説だとも言われています。

自分の初恋の相手が父親と恋をしていたという、とてもやるせない物語です。

16歳のときに読んだと思う。

「恋をするってすごいなあ」と感じました。

同じ恋をしていても、女性のほうが男性よりも濃くて、深い感じがするように、この作品を読んだときに感じました。

ツルゲーネフを通して「ヴ・ナロード」という言葉を知り、地方の病院の医師になることを決めてくれた作品です。

必ずしも「ヴ・ナロード」のために来たのではなく、「医者がいないから」と呼ばれただけに過ぎないのですが、この言葉があったから、「田舎に行くのもかっこいいなあ」と、自分の行動を肯定的に考えることができました。

文学による力が大きかったように思います。

こんなふうに僕は、読書を通しながら、「いま世界で何が起きているのか」「そしてその中で自分はどう生きたらいいのか」を、いつも考えるようにして生きてきました。

読書は、僕の人生における羅針盤の役割を果たしています。

こうした本たちのおかげで、自分の人生は変わっていきました。

本は、人間の運命を変えていくほどの、大きな力を秘めているのです。

【次回】コロナ禍の今こそ読みたい。幸せに生きるヒントをくれる名著/鎌田實の人生図書館(3)

【まとめ読み】『鎌田實の人生図書館』記事リスト

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鎌田 實
1948年東京生まれ。医師・作家・諏訪中央病院名誉院長。東京医科歯科大学医学部卒業。 1988年に諏訪中央病院院長、2005年より名誉院長に就任。地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。 日本チェルノブイリ連帯基金理事長、日本・イラク・メディカルネット代表。06年、読売国際協力賞、 11年、日本放送協会放送文化賞を受賞。 著書多数。

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『鎌田實の人生図書館 あなたを変える本と映画と絵本たち400』

(鎌田實/マガジンハウス)

世界を広げてくれた400を超える本や絵本、映画を取り上げ、生きること・死ぬこと、人生の面白さや心の機微にいたるまで鎌田流に渾身の読書案内! 本は世界で起きていることへの関心を持ったり、物事を考えるうえでの武器にもなります。さらに心の健康づくりのヒントにも。

※この記事は『鎌田實の人生図書館 あなたを変える本と映画と絵本たち400』(鎌田實/マガジンハウス)からの抜粋です。

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