「人生の課題」は対人関係である。「自信を持って生きる」ということ/岸見一郎「生活の哲学」

定期誌『毎日が発見』の人気連載、哲学者の岸見一郎さんの「生活の哲学」。今回のテーマは「自信を持って生きる」です。

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他者と関わらないための自信の欠如

長くカウンセリングをしてきたが、自信がある人に会ったことは一度もない。

自信がある人はそもそも何かの問題で悩み、人に相談をしようとは思わないのだろう。

「自信がある」、反対に「自信がない」というのは性格だが、この性格についてアドラー(※1)は次のように考えている。

まず、性格は生得的なものではなく獲得されたものであるということである。

「性格は、多くの人が考えているように、決して生得的で自然によって与えられたものではなく、人に影のようにつきまとい、どんな状況においても、あまり考えなくても統一された人格を表現することを許すガイドラインに比べることができるものである。それは、いかなる生得的な力や傾向にも対応せず、たとえ非常に早い時期であっても、一定の生き方を保つことができるために、獲得されたものである」(『性格の心理学』)

自信がない人はいつも自信がないのであり、早い時期に自信がないようにふるまおうと決心したのである。

その決心は必要だった。

どんな必要があったのか。

これはアドラーの性格についての次の見方に関係する。

性格は内面的なものではなく、対人関係的なものであるということである。

「『性格』は社会(対人関係)的概念である。われわれは性格について、人のまわりの世界との連関を考慮に入れる時にだけ語ることができる」(前掲書)

人は生まれるとすぐに他者との関係に入る。

その他者との関係から離れて性格について語ることはできず、対人関係の中で自分の性格を獲得するとアドラーは考えるのである。

「性格は、人がまわりの世界、仲間、総じて、共同体と人生の課題をどのように認識しているかを伝える」(前掲書)

「人生の課題」は対人関係である。

他者をどう見ているか、対人関係にどう取り組むかによってどんな「性格」であるかがわかるということである。

他者を必要があれば自分を援助してくれる「仲間」と考えているか、いつ何時自分を陥れるかわからない「敵」と考えるかによって、対人関係のあり方は違ったものになる。

他者を敵と見る人は他者と関わろうとはしない、少なくとも、積極的に関わろうとはしないだろう。

自信がないというのは、ただ能力や人格の問題ではない。

自信のない人は自信がないので他者とは関わろうとしないのではない。

対人関係で何らかの仕方で痛い目に遭ったことがあるので、同じことをまた別の人との関係で経験したくない人は、他者と関わらないために自信があってはいけないのである。

※1 アルフレッド・アドラー(1870~1937年)オーストリアの精神科医、心理学者。

どうしたら自信を持てるか

三木清(※2)は嫉妬について次のようにいっている。

「嫉妬心をなくするために、自信を持てといわれる。だが自信は如何にして生ずるのであるか。自分で物を作ることによって。嫉妬からは何物も作られない。人間は物を作ることによって自己を作り、かくて個性になる。個性的な人間ほど嫉妬的でない」(『人生論ノート』)

自信がない嫉妬する人も他者と関わりたくないわけではない。

関わりたくない人は他者に無関心で嫉妬することもないからである。

自分も成功したかもしれないと思って他者の成功を喜べずに嫉妬する人は、「もしも同じように努力していたら成功していただろう」という仮定の中で生きている。

自分でも物を作ればいいのだ。

それなのに、「嫉妬からは何物も作られない」。

嫉妬する人は何物も作らない。

自信がないからというだろう。

しかし、自信がないからではない。

実際に作っても誰からも評価されないことを恐れるので作らない。

作らなければ評価されない。

作らないためには自信があってはいけないのである。

どうすれば自信を持てるか。

三木は「自分で物を作ることによって」自信が生じる、「人間は物を作ることによって自己を作り、かくて個性になる」という。

自分が作ったものは他者が作ったものと比べることはできない。

そう思えるようになれば、他の誰かが作ったものの方が優れている、と嫉妬しなくなる。

この「物を作る」というのは文字通りの意味だけではない。

「人間は環境を形成することによって自己を形成してゆく、─これが我々の生活の根本的な形式である。我々の行為はすべて形成作用の意味をもっている。形成するとは物を作ることであり、物を作るとは物に形を与えること、その形を変えて新しい形のものにすることである」(『哲学入門』)

ここでは環境を形成することが「物を作る」ことといわれている。

環境を形成するというのは環境に働きかけるということである。

環境というのは自然だけではない。

対人関係も環境である。

対人関係に働きかけることが自己を形成することになるとはどういう意味なのか。

三木が「人間は環境に働き掛けることにおいて同時に環境から働き掛けられるという関係が存在する」といっているように(『哲学ノート』)、この働きかけは一方的なものではない。

何かしてほしいことがあれば主張するということである。

しかし、働きかけても必ず受け入れられるとは限らない。

他者から望む評価をされないかもしれない。

そのような経験を重ねる中で自己を形成していくのである。

三木は先の引用に続けて次のようにいっている。

「このように環境から働き掛けられながら同時に自己を失うことなくどこまでも独立な、自律的な、自己集中的なものであるという関係が存在しなければならぬ」(前掲書)

「独立の個体」(前掲書)であるためには、誰に何をいわれても譲れぬ自分を持たなければならない。

他者に働きかけ、その他者から働きかけられる。

他者から働きかけられてもなお変わらない自分であることも、他者からの働きかけによって自己を形成したということであり、そうすることで「個性」や「自信」も生まれてくるのである。

※2 哲学者(1897~1945年)。『人生論ノート』は発表から80年を超えて読み継がれている。

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岸見一郎(きしみ・いちろう)先生

1956年、京都府生まれ。哲学者。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。著書は『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健氏と共著、ダイヤモンド社)をはじめ、『幸福の条件 アドラーとギリシア哲学』(角川ソフィア文庫)など多数。

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(岸見一郎/KADOKAWA

2018年から2020年3月号までの連載が一冊になりました。読者の皆さんから寄せられた質問を手掛かりに、ギリシア哲学の専門家である岸見先生がアドラー心理学も駆使しながら、より良く生きるための考え方を考察します。

この記事は『毎日が発見』2021年6月号に掲載の情報です。

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