年を重ねてゆく中で、誰にも相談できない悩みを抱えている方や、子供の気持ちがわからない...と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。SNSで注目を集める臨床心理士・みたらし加奈さんは、そんな人にぜひ「マインドトーク(自分との対話)をしてほしい」と言います。そんなみたらしさんの心理学エッセイ『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)より、「彼女が歩んできた人生の物語」を8日間連続でご紹介。きっと、あなたの悩みを軽くする助けにもなるはずです。
何も悪いことはない
2005年、ゲイ・バイセクシュアル男性5731人を対象としたインターネット上のアンケートが行われた。
それによると、3人に2人がこれまで自殺を考えたことがあり、14%は実際に自殺未遂の経験があるとの結果が出たという(「厚生労働省エイズ対策研究事業」の調査より)。
私のところに来るお悩み相談には、セクシュアリティに関することや同性のパートナーとの関係性、またカミングアウトについての内容も多い。
なかには「カウンセリングに行ったけれど、少し違和感を覚えたのでやめた」という人もいた。
日本では、医師やカウンセラーのなかでも、LGBTに関して正確な知識を持っている人は少ないと感じる。
知識は持っていたとしても、当事者が抱える「生きづらさ」に寄り添える人は多くはないのかもしれない。
私自身も、臨床心理士として学んできたなかで「LGBT当事者に関する講義」を受けたのは1度だけだ。
確かに、どんなカテゴリーに属していたとしても、人間は人間でしかない。
しかし、社会の構造によって苦しめられている人たちの悩みには、「特殊」な側面があることも事実だ。
もし治療者側が異性愛者で、相談者から「私はバイセクシュアルなんですけど、それをレズビアンの子たちには言えないんです」と話されたとしても、状況を把握することは難しいと思う。
この一文を読んで、「セクシュアルマイノリティ同士なのにどうして?」と思う方もいるだろう。
どんなに「LGBT」という言葉の認知が広がったとしても、本質的な問題は外には届かない。
そうすると、当事者はどんどん「専門機関」に行きづらくなってしまう。
結果、未来が見えなくなって自殺を考えたり、それを実行してしまう人たちがいる。
「どうせ話してもわかってもらえない」という絶望感を与えないためにも、治療者への教育の必要性はあると感じている。
もし仮に、あなたが自分のセクシュアリティについて悩みを抱えているなら、次に伝えることを心に留めてほしい。
「あなたが誰を愛するか」という問題に対して、"迷惑"を被るのは(いるとすれば)あなたのパートナーだけだ。
たとえあなたがどんな性別であったとしても、どんな性別の人を愛そうと、「あなたのパートナーになる人」以外には関係がない。
私が「パンセクシュアル」か「レズビアン」かを気にしていいのは美樹だけで、美樹との関係性が構築された今では、それすらもまったく問題にならない。
大切なのは、あなたの「こころ」なのだ。
そこにあれこれ口を出してくるような人の意見なんか、絶対に気にしなくていい。
そして、あなたは誰にも申し訳なく思う必要はない。
親に対しても、友人に対しても、あなたが謝る必要なんてひとつもない。
あなたは誰のことも傷つけてはいないし、たとえ相手が「傷ついた」と言ったとしても、それは相手と「生きていく上での価値観」が違うだけなのだ。
カミングアウトするかしないかはあなたの自由だが、とにかく「あなたがあなたであることに、悪いことなんて何ひとつない」ということを私は強く推していきたい。
「どうでもいいこと」にはできないこと
LGBTQ+というように、世の中には「名前のついた」セクシュアリティがたくさんある。
もしあなたがその名前を「使う」ことによって安心感を得られるのであれば、存分に利用していいと思う。
しかし、もしあなたが「名前」に縛られてしまっているのであれば、一度自分を解放してあげてほしい。
男らしくとか、女らしくとか、「○○らしく」する必要はない。
あなたがレズビアンだろうがゲイだろうが、本来は「どうでもいい」話なのだ。
同性同士が結婚できたり性別による括りがない社会の中では、「性別」や「セクシュアリティ」は星座と同じくらいのものだ。
それを「どうでもいいこと」にできないのは、間違いなく社会構造に問題がある、と何度だって主張しておきたい。
もし目の前で「生殖行為が行えないカップルは、淘汰されるべきだ」と叫ばれたなら、「同性婚が認められていない日本で、少子高齢化が起こるのはなぜか」を問いたい。
誰が誰を愛そうが関係なく、国は繁栄するし衰退もする。
「子どもがゲイだなんて恥ずかしい」と思う親ですら、老後になれば価値観が変わっていく可能性だってある。
自分が大きく捉えている問題も、実は時間の流れの中では小さな問題なのかもしれない。
10代の時に悩んでいた問題を、40歳の自分が悩んでいるかと言えば、そうではないこともある。
だから、諦めないでほしい。
私はあなたの味方だし、私たちの味方は世界中にたくさんいる。
この文章を、私の愛する人、親愛なる友人たちすべてに贈ります。
傷ついた過去を清算して、皆が笑顔になれますように。
【最終回】どうせ死ぬなら、どうせ一度きりなら、私はとことん足掻いて、自分らしく生きていきたい
【最初から読む】「話相手をして下さい」渋谷でポツンと立っていた一人の女性/マインドトーク(1)
5章にわたって、みたらし加奈さんが自身の体験記やお悩み相談への回答を通して、悩みを抱える人々へ「生きる選択肢を広げる」ヒントを教えてくれます。