「話相手をして下さい」渋谷でポツンと立っていた一人の女性/マインドトーク(1)

年を重ねてゆく中で、誰にも相談できない悩みを抱えている方や、子供の気持ちがわからない...と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。SNSで注目を集める臨床心理士・みたらし加奈さんは、そんな人にぜひ「マインドトーク(自分との対話)をしてほしい」と言います。そんなみたらしさんの心理学エッセイ『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)より、「彼女が歩んできた人生の物語」を8日間連続でご紹介。きっと、あなたの悩みを軽くする助けにもなるはずです。

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ネットの世界に産まれたもうひとりの私

その日は、寒いなぁと思いつつ、渋谷の駅前で妹を待っていた。

見慣れた街でぽつんと道行く人たちを見ながらぼうっとしていると、「精神障害者(schizophrenia)です。話相手をして下さい。」という紙を持った1人の女性が目に留まった。

英語で schizophrenia、和訳は「統合失調症」である。

しばらく、遠巻きに彼女の姿を眺めていた。

土曜の昼過ぎ、多くの人が交差する渋谷の喧騒の中、その場所だけ時間が止まっているように見えた。

誰もが彼女には気にも留めず、目に入ったとしても嘲笑するかのような表情や、眉をひそめる人たちばかりだった。

「偏見」という言葉が頭をよぎる。

その光景を悲劇として捉えてしまえば彼女に失礼ではあるが、この場所を包む雰囲気に「嫌な感じ」を覚えてしまった。

そして思わず、体が動いていた。

隣に座り、「寒いですね」と声を掛けた。

するとハッとした表情の後、満面の笑みで「寒いですね! 待ち合わせですか?」と、彼女に問い返された。

「人を待ってます。でも時間がある。少しお話ししましょう」と声を掛けると、にこやかに対応をしてくれた。

自分は統合失調症で、初発年齢は10代、今は慢性期だと話してくれた。

統合失調症とは、思考や行動、感情がまとまりにくくなる脳の病気のひとつである。

その症状は陽性症状と陰性症状に分けられ、陽性症状は主に「幻覚」や「妄想」「支離滅裂な言動」、陰性症状は「意欲低下」や「活動性の低下」「感情の平板化」が挙げられる。

彼女は陽性症状と陰性症状を繰り返しながら、今は薬物療法で安定している、と話してくれた。

私たちはそのまま、いろんな話をした。

「なんで、道端で人と話そうと思ったんですか?」と聞くと「寂しかったから」と、ご家族のことを話してくれた。

日本ではまだまだ精神疾患に対する偏見が根強く残っているため、病気を発症してから家族の協力を得られないことも多々ある。

「病気になってしまってから、うまく友だちも作れなくて。誰でもいいから、誰かと話したかったの。ほんの30秒でもいい、寂しさを忘れられるから」

そのひと言は、彼女の孤独を示すのに充分すぎる言葉だった。

精神障がい者の労働環境、自立支援の話もした。

嬉しそうに、趣味で始めた習字の作品も見せてくれた。

生活の中で、彼女が抱える葛藤や怒りも話してくれた。

私は通りすがりの人間で、患者と医療従事者の関係ではなく、責任や損得勘定も関係ない。

だからこそ、2人で本音をたくさん話せたのだと思う。

「誰がいつどうなるかなんてわからない。私だって明日、統合失調症になるかもしれない」。

そう話すと、「私が出会った人たちの中で、そういう考えを持つ人は初めてです」と言われた。

精神疾患というと、自分と切り離されたものに感じてしまうが、そんなことはない。

体の病気と同じで、いつだって身近なところに存在している。

彼女と過ごした時間はたった30分、すごく濃密な時間だった。

分のタイミングを押し付けることもなく、「待ち人は大丈夫か」と何度も気にかけてくれた。

妹から連絡が来て「そろそろ」と言うと、「本当にありがとう」と言われた。

「大丈夫、生きていればなんでもできる。お互い生きていきましょう」と伝えた。

おこがましいのも無責任なのもわかっている。

でも、それが私の精一杯の、本当の本当の気持ちだった。

「うん! すごく元気をもらえた。生きていけます」と、彼女は笑顔で答えてくれた。

「少しでもいろんな人に伝わるように」と一緒に写真を撮り、握手をして解散した。

帰宅後、私は自身のSNSを使ってがむしゃらに文字を打った。

彼女と私の気持ちを、想いを、誰かに伝えなければならない気がした。

そして、文章の最後にこう綴った。

「少しでいい、少しでいいから自分の住む世界以外のことに目を向けてほしい。大きくなくていい、変えようとすることが絶対的に正しいわけではない。毎日のニュースについて話したり、そんなことでいい。私たちは戦わなければならない。戦う敵は、理不尽なことすべてだ。肌の色でも、外見への批判でも、性差でも、親の圧力でも、自分を嫌う人でも、政府への怒りでもなんだっていい。出る杭が打たれる時代は終焉しなければいけない」

ありがたいことに、この投稿には300件近いコメントがつき、フォロワーは20倍以上に増えた。

でもそれ以上に嬉しかったのは、彼女と同じような「孤独」を抱える人たちからのメッセージがたくさん届いたことだ。

その中には「死」を匂わせる文章も含まれていた。

「孤独」は、緩やかに全身を回る毒のように、その人の心を蝕んでいく。

受け取ったメッセージを読み返しながら、危機感を覚えざるを得なかった。

次の記事:「心の病」を抱え、外にも出られない人と繋がるには...思い至ったSNSの可能性/マインドトーク(2)

【まとめ読み】『マインドトーク』記事リスト

mindtalk_H1_obi_001.jpg5章にわたって、みたらし加奈さんが自身の体験記やお悩み相談への回答を通して、悩みを抱える人々へ「生きる選択肢を広げる」ヒントを教えてくれます。

 

みたらし加奈(みたらし かな)

1993年、東京都生まれ。臨床心理士。SNSを通して、精神疾患の認知を広める活動を行なっている。大学院卒業後は、総合病院の精神科にて勤務。現在は、フリーランスの活動をメインに行っている。女性のパートナーと共にYoutubeチャンネル「わがしChannel」も配信中。

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『マインドトーク あなたと私の心の話』

(みたらし加奈/ハガツサ ブックス)

誰にも相談できない悩みを抱え、精神的に疲れてしまった…そんなあなたは、生きる選択肢を広げるために「マインドトーク」をしてみませんか? 自分と対話し、もう一度「生きる」と向き合ってみることで心がフッと軽くなるかもしれません。SNSで注目を集める臨床心理士・みたらし加奈さんが、自身の体験を包み隠さず伝えることで、悩みを抱えるすべての人たちとの対話を試みる、話題の一冊です。

※この記事は『マインドトーク あなたと私の心の話』(みたらし加奈/ハガツサ ブックス)からの抜粋です。
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