年を重ねてゆく中で、誰にも相談できない悩みを抱えている方や、子供の気持ちがわからない...と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。SNSで注目を集める臨床心理士・みたらし加奈さんは、そんな人にぜひ「マインドトーク(自分との対話)をしてほしい」と言います。そんなみたらしさんの心理学エッセイ『マインドトーク あなたと私の心の話』(ハガツサブックス)より、「彼女が歩んできた人生の物語」を8日間連続でご紹介。きっと、あなたの悩みを軽くする助けにもなるはずです。
情報発信の難しさと重要性
スマートフォンが普及したことによって、メディアとの接触時間は大幅に増えた。
ウェブサイトを開けば、たくさんのニュースサイトにヒットする。
私たちの世代は幼い頃からインターネットを利用しているため、インターネットとの親和性が高く「デジタルネイティブ」と呼ばれることもある。
朝から晩までインターネットとつながっているからこそ、時にはそこから入る情報によって人生の価値観などが大きく変わることもある。
だからこそ、臨床心理士として発信していく中で、「間違った情報」を出してしまわないように特に気をつけている。
また「発信する側」として、できる限り日頃からたくさんの情報に触れたり、分野や学問を問わずに勉強をするようにしている。
ある時期から、「フェイクニュース」と呼ばれる粗悪なメディアや記事が大きな問題となった。
2016年に起こった熊本地震の時には、動物園からライオンが逃走しているというフェイクニュースが流れ、動物園や警察に問い合わせが殺到した。
そのほかにも、医学的に根拠のない情報を流す医療関連記事や、過激な意見ばかりを並べるまとめサイトなど、誰もが気軽にページを立ち上げられるからこそ、情報を受け取る側が気をつけなければならないことも増えてきた。
しかしながら信頼できそうなメディアだからと言って、情報の正しさやリテラシーが伴っているとも言い難い。
とある番組で「女性専用車両に乗りたくない女性が増えている」と報じられた。
「マウンティングの取り合いで戦場と化した女性専用車両」といった旨の内容に、SNSでは多くの女性が声を上げた。
結果的に、取材に答えた女性が「内容が正しく伝えられていない」と訴え、番組内で訂正・謝罪をするという騒動があった。
その騒動があった時、私が感じたのは「放送する前に、メディア側にもそれらの情報の正確性について異議を唱える人はいなかったのか」ということだった。
どんな媒体のメディアであったとしても、結局それらを作っているのは人間であり、「発信する側」の倫理観によって情報は大きく左右される。
私自身、メディアからの取材を受けてきた中で、「そういう伝え方はしていないのにな......」と思うことは何度かあった。
ただその時は「こちらの伝え方が悪かったのかもしれない」と考え、先方には丁寧な文章で再度訂正をお願いした。
特に「当事者」がいるような話は、情報の齟齬(そご)が生まれやすい。
それもそのはずで、特に人の内面が関わってくるような話には、それぞれの人生観が大きく影響している場合がある。
例えば「LGBTQ」とひと括りに言ったとしても、そこには十人十色のセクシャリティがあり、「ゲイだから、同性婚に賛成」という人もいれば「ゲイだからこそ、同性婚に反対」という人だっている。
それは精神疾患にも言えることで、「うつ病だけど、これはできる」とか「うつ病だけど、これはできない」など、人それぞれだ。
当事者ではない人が「その分野」を扱う際に、"カテゴライズ"をして結論づけてしまうことは多くある。
私だって、気をつけなければ同じことをしてしまっていたかもしれない。
大切なのは「人によって違う」ということを、頭の隅に置いておくことなのだろう。
私がメディアに出演したことで気がついたのは「誰だって人を傷つけてしまう可能性を持っている。
だからこそ些細なニュアンスだったとしても、情報を発信する時には細心の注意を払わなければならない」ということであった。
また、自分の「知識の正しさ」を、もう一度考え直すきっかけにもなった。
どんな媒体であったとしても正しい"情報"かどうかを見極め、自分の頭の中に正しい"知識"をインプットすることは重要である。
その情報は、「私情」によって歪められていないだろうか。
どんな背景を持った人が見ても、その情報には「正しさ」が含まれているだろうか。
言葉尻によって、傷つく人はいないだろうか。
それでも人間だから、難しいことはたくさんある。
大切なのは、「気をつける」を気をつけることなのかもしれない。
世の中には、自分が思っている以上に良いサービスや、誰かのためになるような支援がたくさんある。
カウンセリングだって、資格を持っている人たちが行っているような「気軽に相談できる」アプリやサイトは実はたくさんあるのだ。
しかし、多くのサービスの認知度は低く、結果的に多くの人たちは「相談したい時にできない」という認知につながってしまう。
「社会貢献」の難しいところは、「その活動が認知されることによってより一層大きな意味を持つ」ということだ。
本当に必要な人にその情報が届かなければ、骨折り損になってしまう場合だってある。
それは、自分自身が「発信者」になって初めて気がついた。
だからこそ、社会について問いかけてくれたり、それらのサービスを周知してくれるようなメディアがあるのは本当にありがたいことで、私自身もそれらのメディアが発信する「情報」に救われてきた。
【次回のエピソード】自分の「普通」を相手に押し付けないで。全ての人が持つ「多様性」とは?
5章にわたって、みたらし加奈さんが自身の体験記やお悩み相談への回答を通して、悩みを抱える人々へ「生きる選択肢を広げる」ヒントを教えてくれます。